新中国論

新中国論 野嶋剛 平凡社新書 ISBN978-4-582-86005-4 960円 2022年5月

 筆者は長らく朝日新聞で中国関係の報道に携わり、2016年に独立して(退社して)中国を中心に取材しているジャーナリスト。

 1997年にその後の50年間(2047年まで)は大きな変化はないとして、香港の統治を始めた中国(北京政府)。その約束の半分の期間にもならないうちに看板の「一国二制度」をかなぐり捨てて、香港の“民主派”に対する徹底弾圧を始めた中国。ただ、その前提の「二制度」(本来は社会主義と資本主義)はすでに意味がなく、中国自体が事実上の資本主義になってしまっている。中国(北京政府)としては、文字通りの一国化をしただけということか。

 力で香港を押さえつけた代償は大きいと思う(思いたい)。何よりも香港の人たちの心に残した中国共産党というものの姿。そして約束を平気で反故にしたしたことによる国際的信頼の喪失と恐怖。

 台湾に対しても、虎視眈々と武力侵攻を狙っているのは明らかだと思う。習近平自身は自分の在任中に“統一”を果たしたいだろうし。だが、香港での強圧的な態度は、台湾の人たちの警戒心を増す結果になった。つまり、いまは武力侵攻のタイミングではなくなったことはわかっていて、ロシアのウクライナ武力侵攻を冷静に眺めていると思う。

 それにつけても、習近平の「偉大なる中華民族の復興」って何。“民族”間の対立を止揚しようともせずに対立を煽る構図。その “中華民族”ですら、実体は曖昧、ご都合主義的なものでしかなく、インターナショナリズムのかけらもない。あの一帯一路も、当座の援助を餌に、中国資本の海外進出を目指しているというのが実態だし、すでに債務の罠に陥ってしまった国も出てきている。

 国内的には経済発展という飴で民衆をなだめ、“民族”というたがで対外的結束を図る。だが、経済発展が鈍化し、貧富の差がますます大きくなるだろう中国が、いつまで今の体制を維持できるのか、たぶん未来永劫には続かないと思うが(ここも思いたいが)、自分が生きているうちは難しい可能生が大きいような気もする。哀しいながら。

 目次は裏表紙の帯を参照。

 

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2022年7月記

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