日本の気候変動5000万年史 佐野貴司・矢部淳・齋藤めぐみ 講談社ブルーバックス ISBN978-4-06-529387-4 1,000円+税 2022年9月
国立博物館が2016年4月〜2021年3月に行った総合研究、「化学層序と年代測定に基づく地球史・生命史の解析」(※)のなかから、表題のような内容に絞って一般人向けに書いた本だという。 5000万年史にしたのは、日本列島の誕生が従来考えられていたよりもかなり前だったという説が強くなってきたので、日本列島の土台ができただろうころから始めるという意味だそうだ。
内容的には化学層序よりも、植物化石を使った古気候の解析方法の紹介が多い。従来からの花粉分析のほか(花粉は堅いので地層中に残りやすい、だくさんの花粉の種類が寒冷・温暖のどちらに適した種が多いかなどを見る)、 葉縁解析(葉っぱの縁がぎざぎざか滑らかか、その程度が気温を反映しているという)やCLAMP法(さらに多くの形態を用いると降水量も分かるという)が紹介されている。“化学層序”とあったので(国立科学博物館のホームページでも、「3台の質量分析装置を用いて、岩石や堆積物に含まれる酸素、炭素、ストロンチウムなどの同位体比を分析し、地層の年代や堆積時の環境を明らかにする」と書いてあるし)、同位体分析が主だと思っていたが、この本では違っていた。
この本の形式的特徴は、各見開きページの左側の下に(脚注があるところに)新生代の地質年代表が出ていることで、これは地質年代になじみがない一般の人にはいいと思う。また、同じ図(図1-1、過去5000万年間の気温、海水準の図)が繰り返し出ているところもあって、これもいちいち前のページを参照しないですむのでいいと思う。
あと、気温や二酸化炭素濃度の変化の図(例えばp.110図3-2)などで、現代に近づくほど変動が激しくなっているが、これは単にデータの時間分解能が高くなっているのだと思う。
過去の気候の周期性で、ミランコビッチ説が肯定的に取り上げられることが多く、この本でもそうだが、不思議なのはミランコビッチの周期と気候変動が同期しているように見えるのは、せいぜい第四紀(258万年前〜現在)、それ以前ははっきりしないようなことだ。いずれにしても、この本でも気候変動理由を色々と考察しているが、じつはまだ、気候変動の理由はよく分かっていないということだと思う。また、それ以前の気候変動の復元についても、誤差がかなり大きいのだと思う。
※ テーマは「中生代の海の地層とアンモナイトの進化」「約6600万年前の恐竜絶滅の原因解明」「白亜紀以降の陸の地層と哺乳類進化」「東アジアモンスーン開始と強化の歴史」「日本周辺における第四紀の海流変動」「人新世における食虫コウモリの絶滅」「ジャワ原人の出現時期の解明」だったそうだ。国立博物館特別展示「「化学層序と年代測定に基づく地球史・生命史の解析」展が2022年9月27日〜12月4日の期間開催中。
2022年11月記