日本共産党

日本共産党 中北浩爾 中公新書 ISBN978-4-12-102695-8 1,100円 2022年5月

 今年で結党100年を迎える日本共産党。事実上の断絶期間があったとはいえ、100年間続いた日本では唯一の政党。だがその内実はどうか。彼らのいうように“一貫”してきただろうか。

 この本は100年間にわたる日本共産党の歴史を、新書サイズとしては異例ともいえる440ページもの分量で分析する。

 1920年代の結党時から戦後の一時期にまでソ連の介入があった。とりわけ1950年にはコミンフォルムの名を借りたスターリンその人による直接“指導”(野坂参三の平和革命論批判)があった。これにより日本共産党は、スターリンの批判(本人の批判とは知らないで)に対して反発した「所感派」(徳田球一、野坂参三、伊藤律らの中心幹部の中の多数派)と、スターリンの批判を受け入れる「国際派」(宮本顕治ら少数派)に分裂する。

 所感派の幹部たちは中国に亡命し、活動の場を北京に移す。中国に亡命した幹部たちは当然中国共産党の庇護を受け、その要求を受け入れて暴力革命路線に転換する(当時の中国共産党は、ソ連共産党と並ぶ社会主義革命をなした遂げた共産党)。一方、国内に残された国際派は平和革命路線に転換する。この辺のねじれが歴史の妙というか。北京では徳田球一ば病死、伊藤律はゾルゲ事件に絡んだスパイとして失脚。日本共産党のヘゲモニーは国内に残された国際派が握ることになる。こうして日本共産党は、1951年 年綱領の暴力革命路線から、1956年綱領の平和革命路線に転換することになる。

※ 死んだ、あるいは処刑されたと思われていた伊藤律は、1979年に生きていることが確認され、翌1980年に帰国。ゾルゲ事件に絡んで、伊藤律を日本のユダと断定した尾崎秀樹(「愛情は星降るごとく」)は、伊藤律の帰国後本人から改めての取材はしなかったようだ。当然、伊藤律は猛反発。

 1955年のフルシチョフによるスターリン批判、さらには1960年代からの中国の文化大革命などに際し、ソ連、中国両共産党と距離を置く「自主独立」路線で、それらの影響をあまり受けずに過ごすことができた。

 ただ、難しいのは共闘。日本共産党一党ではいかんともしがたい現状があるので、どこかと共闘しなくてはならない。とりわけ難しいのが“市民運動”との関係。ここでも紆余曲折。1970年代〜80年代の“新日和見主義”批判の元は、1960年代の宮本顕治と上田兄弟(上田耕一郎、不破哲三(上田健二郎))の確執から始まると思う(結果は上田兄弟が形式的には屈服)。だが、宮本顕治の引退・死去に伴い、結局は上田兄弟路線(市民運動とも共闘。現在の志位路線) になってきている。それは1960年代後半から70年代のベ平連に対する否定的態度と、2015年安保法制反対のSEALDsに対するすり寄りに象徴される。

※ 毎日新聞2022年5月30日「『日本共産党100年への手紙』(有田芳生・参院議員)」という、有田芳生インタビューはこの辺が背景にあり、有田芳生は、党中央の市民運動(とりわけ小田実)との共闘のぶれの犠牲者だと思う。

 この本では労働運動への関わりも分析していて、それについても思うところはあるが、ここでは省略。

 いずれにしても、そのぶれを認めない、例えば1951年綱領は所感派の責任として、党の責任ではなかったとする無謬主義が、党の限界ということだと思う。

 この本での指摘、日本共産党のある意味での融通無碍さは、その二段階革命路線、まだ日本はアメリカの従属国であるからまず第一段階としてアメリカからの完全独立を目指す“民族民主革命”(最近は「民族」がなくなっている)、そしてその後に“社会主義革命”という戦略にあるという指摘は当たっていると思う。つまり、“社会主義革命”を彼岸の彼方に置くことによって生まれる「自由」。ただ、その根底となる日本についての分析が問題。

※ インターナショナル(民族の枠を取っ払う)を目指す、科学的社会主義(最近はマルクス・レーニン主義とはいわなくなっている)を目指す日本共産党が、なぜ科学的な実体がない“民族”にこだわっていたのかとても不思議。まあお隣の中国共産党が「偉大なる中華民族」とかいっているのと同じ、「偉大なる日本民族」的感覚だった?

 現在の日本共産党が抱える最大の問題は、この本でも指摘されているとおり、党員・支持者の高齢化だと思う。駅前広場での演説会(広報活動)を見ても、弁士・ビラ配り・聴衆のほとんどが高齢者という目を覆うばかりの現実、党よりも早く衰退してしまった青年組織民青(民主青年同盟、かつては多くの大学自治会の実権を握っていたはず)を見ると、党の将来は先細りでしかないと思う。まあ、当然幹部たちも意識はしていると思うが。

 100年間「正しい」ことをいい続けてきたはずなのになぜ支持が広がらないのか、そのあたりを真剣にとらえ返す作業がない限りは、日本共産党の将来は暗いと思う。

目次
はじめに
序章 国際比較のなかの日本共産党
第1章 大日本帝国下の結党と弾圧 ロシア革命〜1945年
第2章 戦後の合法化から武装闘争へ 1945年〜55年
第3章 宮本路線と躍進の時代 1955年〜70年代
第4章 停滞と孤立からの脱却を求めて 1980年代〜現在
終章 日本共産党と日本政治の今後
あとがき
 註記
 付録 日本共産党各種データ
 日本共産党関連年表

 

nihonkyosanto-01.jpg (95357 バイト) nihonkyosanto-02.jpg (88133 バイト)

 

2022年7月記

戻る  home