嫌いなら呼ぶなよ 綿矢りさ 河出書房新社 ISBN978-4-309-03048-7 1,400円+税 2022年7月(8月2刷)
4編の中編が収められている。各表題と、おおざっぱな内容は裏表紙の帯参照。史上最年少(19歳)で芥川賞を受賞した筆者もアラフォー(1984年生まれ)。同時受賞の金原ひとみと同じように、その後も活躍を続けているようで何より。
「神田タ」は芥川龍之介「蜘蛛の糸」に出てくる罪人カンダタ。これ自体は本題とは関係ないが、主人公ぽやんちゃん(石ノ鉢紗永恵)が推しているユーチューバー神田が、バイト先の系列飲食店の常連だと知って、そこに偽ヘルプとして勝手に押しかけ、神田たちの話を盗み聞きしていたときに、神田が「蜘蛛の糸の」の話をしたというだけの表題。ともかくぽやんちゃんの可愛さ余って憎さ百倍行動に至る経過。
「嫌いなら呼ぶなよ」は、不倫男が妻の親友夫妻に招かれた家の新築パーティから一変し、さらに親友夫妻の友達夫妻の5人からつるし上げを食う話。
最後の実名小説「老(ロウ)は害(ガイ)でも若(ジャク)も輩(ヤカラ)」は。42歳女性インタビュアー兼ライター vs 37歳女性作家綿矢、互いに譲らない熾烈な争い(メールでのやりとり)に巻き込まれる26歳男性編集者。まだ若い男性編集者は、停電等のトラブルに見舞われながら、本当はこの仕事が終わってから飲もうと思っていてお酒を思わず飲み過ぎ、気がついたら「本音メール」を二人に送信してしまっていた。
考えることはあっても、現実では考なかなか起きないようなこと、何か現実を歪んだ拡大鏡で見るような世界。あたかも、巨人の国に紛れ込んでしまったガリバーの感覚。
2023年2月記