気候変動と「日本人」20万年史 川崎穂高 岩波書店 ISBN978-4-00-061531-3 2,000円 2022年4月
初めにさらっと人類史を俯瞰してから、日本人(縄文人と弥生人)の起源(どこからやってきたのか、それはいつ頃かなど)、さらには日本史の大きな変革期が気候変動(=食糧調達)と密接に絡んでいると主張する。そして、その気候変動のおもな原因として、火山の大噴火で放出される火山灰が日射を遮るために生ずる気温低下を挙げている。他の原因としては、ジェット気流の流れやエルニーニョなども挙げられている.
火山噴火がそれほどの気温低下を導くのか、他の原因はないのかなど疑問もあるが、日本人起源論、またおもに鎌倉時代までの歴史がコンパクトにまとまっている。
それにつけても、現在より2℃ほど気温が高かったと思われるころの三内丸山遺跡(5900年前〜4200年前)時代の縄文人の繁栄と比べ、今後100年間で約2℃の上昇が人類存亡の危機に繋がるということは、たしかにその変化の速さがきわめて速いということもあるだろうが、それだけ現在の人類社会がきわめて微妙で脆弱な基盤の上になりたっているということかが大きいのかもしれない。
目次
序章 気候・環境変動と社会――寒冷期の影響
人類の活動が前面に躍り出た現代/気候変動が生みだす環境変動/寒冷気候と水稲の収穫/気候・環境変動の人間社会への影響/寒冷気候と日本人・日本社会における大きな出来事/多分野にわたる統合的理解に向けて
第1章 究極の故郷はアフリカの大地――ヒトの誕生から「出アフリカ」へ
わたしたちの究極の故郷/「直立二足歩行」の短所と長所/ヒトの誕生と地球環境の乾燥化/増大する脳容量と能力/美食が人類を進化させた/レバント地方の温暖な気候/レバント地方で遭遇した別のヒトとの生存競争/超巨大噴火によるホモ・サピエンス絶滅危機/アフリカ東部で経験した3度の湿潤気候/「出アフリカ」をホモ・サピエンスと共にした病原菌
コラム1─1 遺伝子的にホモ・サピエンスに近いヒト
コラム1─2 氷期・間氷期サイクル
第2章 はるかなる大地を行く――ユーラシア大陸横断
ホルムズ海峡にたどり着いたホモ・サピエンス/アフリカを脱出したホモ・エレクトス/東へのルート/「マンモスハンター」が残したヒマラヤ北ルートの足跡/寒いシベリアで活躍するホモ・サピエンス/野生動物絶滅の犯人捜し/フローレス人の生活環境と絶滅/寒冷気候がとどめをさすネアンデルタール人の絶滅/現代人のDNAに痕跡を残すネアンデルタール人とデニソワ人/日本に最初にたどり着いたホモ・サピエンス/「対馬ルート」を経由した最初のホモ・サピエンス/「北海道ルート」と「沖縄ルート」
第3章 縄文社会の出現――「縄文杉」は「弥生杉」
縄文土器が創出した生活革命/世界最古の石鏃と土器は「Made
in Japan」/大平山元T遺跡の立地理由と水中縄文遺跡/日本人の祖先が体験した最寒冷気候/最寒冷期に絶滅した動物/縄文時代草創期の海面上昇と水没する海岸/陸上生態系が大きく変化する融氷期/縄文人の寿命、人口、人口密度、居住地域/縄文人の遺伝子からわかること/平和で穏やかな縄文社会/土偶に託す縄文人の祈り/九州最南端に開花した最古級集落、上野原遺跡/九州南部縄文社会を襲う鬼界カルデラの巨大噴火/世界遺産「縄文杉」、実は「弥生杉」/白神山地の広葉樹林の誕生と自然の恵み/「8200年前イベント」/豊かな貝塚と関東平野の縄文海進
コラム3─1 放射性炭素年代測定法
コラム3─2 アジアモンスーンとエルニーニョ
コラム3─3 日本人の遺伝子グループ
コラム3─4 キラーエイプ仮説
第4章 三内丸山の繁栄と縄文社会の衰退――恵まれた食生活から環境劣化へ
縄文のイメージを覆す大規模集落、三内丸山遺跡/三内丸山の盛衰も左右した、わずか2度の気温変化/安定同位体から探る縄文人の食事/食料確保の努力と縄文人の恵まれた食生活/クリの「里山」的管理と狩猟採集の優位点/クリの半栽培で大規模集落を誕生させた天才縄文人の出現/考古学と現代人の遺伝子データが提供する当時の人口変化/「japan?」が投げかける栽培の開始/縄文中期に世界の三大漁場の一つとなった三陸沖/火?型土器にみる縄文人の高い芸術性と豊かな精神生活/縄文晩期の環境劣化が衰退させる、関東縄文社会
第5章 現代日本人の遺伝子の故郷――古代中国の大地
水稲栽培発祥の地、河姆渡遺跡/長江河口よりさかのぼる、水稲栽培の開始時期/河姆渡の生活環境と周辺の水稲文化の発展/現代日本人の遺伝子の故郷の一つ、長江下流域/黄河文明と長江文明の実力/4200年前の極端寒冷化が断絶させる長江文明/4200年前イベントが招く汎世界的な文明劣化/二里頭文化と緑豊かな黄河中流域/人為的環境破壊が始まる古代中国/黄河流域の畑作とブタの食べもの/気候不順で動乱に向かう夏王朝の運命
第6章 水稲栽培伝来と弥生人――日本米の意外な故郷
殷(商)王朝の崩壊と「商人」の誕生および流民の発生/大寒冷気候が促す弥生人の来日/水稲の遺伝子が語る日本のコメの意外な故郷/水稲栽培を伝えた人たち/紀元前10世紀に始まる弥生時代/初期の田んぼの脇には縄文土器/縄文時代にすでに到来していた陸稲/水稲栽培の開始と伝播/酒豪と下戸で判別可能な集団/山口県土井ヶ浜遺跡で西を向いて眠る弥生人/人口分布が劇的に変化した弥生時代
第7章 中国の勢力拡大と日本社会の発展――紀元前5世紀から紀元前2世紀の寒冷気候
水稲栽培を受け入れた縄文系日本人の人口増加/春秋時代に始まる「金属の王様、鉄」の普及/金属器と中国文明の拡大/水稲栽培を受け入れた縄文系日本人の人口増加/中国戦国時代の温暖化と環境破壊/呉の人びとの日本への渡来仮説/中国における総人口1億人の壁/緊張高まる環濠集落、吉野ヶ里遺跡/吉野ヶ里地域の恵まれた環境と人びとの生活/日本最古の漢字で記されたロマンチックな言葉/黄巾の乱と倭国大乱を誘発したタウポ火山の大噴火説
第8章 温暖・湿潤環境が育む倭国――古墳造営と環境変化
箸墓古墳に始まる古墳時代/三角縁神獣鏡の五大不思議/温暖・湿潤気候が育む倭国の良質軍船/大古墳造営が生み出す環境破壊/群馬の大古墳が示す関東の中心/湾、湖、低地へと変遷した大阪/クラカタウ火山大噴火の災難/気候を克服するための古代土木公共事業/夏季アジアモンスーンの弱化に翻弄される隋王朝の首都移転/世界的な乾燥化が招く唐王朝の衰退
第9章 繰り返す温暖化と寒冷化――飛鳥時代から江戸時代へ
古代の文明開花の時代を支えた温暖化/日本初の本格的首都/平城京における鉛汚染/古代の国家プロジェクト「奈良東大寺の大仏建立」/金ピカの大仏建立に伴う水銀汚染/「古代大量消費型社会」から「エコ社会」への転換/日本人に加わる渡来人の遺伝子/日本人となって日本の文明に貢献した渡来人/気候の温暖化と社会の改革がもたらした古代の繁栄/中世寒冷期となった平安時代末期/寒冷化と社会への影響/治承・養和の飢饉と「奢る平家は久しからず」/武家政治の誕生と厳しかった鎌倉時代の生活/元寇と暴風雨/モンゴル帝国の隆盛に決定的な影響を与えた気候/頻発した火山噴火がもたらす寒冷気候/寒冷気候に耐性をもち始めた社会/寒冷気候が継続した小氷期
コラム9─1 水稲栽培に必須の灌漑設備と寒冷気候の収穫への影響
終章 気候が時代を変革する――新大寒冷気候説
寒冷気候と、日本人および日本社会における大きな出来事/気候のゆらぎの周期性と人間社会/気候がもたらす社会の進化/極端な気候がもたらす社会の転換
おわりに――ホモ・サピエンスよ、どこへ行く
参考文献
2022年7月記