海棲哺乳類大全 総監修田島木綿子・山田格 緑書房 ISBN978-4-89531-588-3 8,800円(9,680円) 2021年3月
この本の特徴は海棲哺乳類の中にクジラ(鯨偶蹄目)や アシカ・オットセイ(鰭脚類)、ジュゴン・マナティ(海牛類)ばかりか、ラッコとホッキョクグマを含めていることにある。これらについての、体・生理・生態などをまとめている。
※ 鯨は偶蹄目、とりわけカバとの関係が近いので、最近はまとめて鯨偶蹄目という分類。
ただ、もっとも知りたかったマッコウクジラで特徴的な、あのたぐいまれな潜水能力、マッコウクジラの記録は1,860 m(3,000 m以上潜れるらしい)、90分、さらにアカボウクジラは2,992m、138分というその驚異的な能力の説明がない。なぜ深く、長時間潜れるのか、潜水病にかからないのはなぜか、深海での狩りの様子とか。エコーロケーションに使う超音波を武器としても使っているのかも。
※ あと、脳に行く血管の途中に、キリンと同じような怪網(奇網)という不思議な構造があったと思うが、その記述もない。ただ、怪網(奇網)でググっても、クジラにはヒットしないので、記憶違いか。
※ マッコウクジラのの巨大な“頭”、さらにはイルカのおでこは、じつは“鼻の下”だという。たしかに鼻の穴と口の間の部分。
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ナショジオの映像を見ると、深海で泳ぎ回ってイカを探しているのではなく、静かに漂って(エネルギーの消費を抑えて)、下あごの白い部分に引き寄せられる獲物(イカ)を捕らえるような気がします。
※ 同じように深海まで潜るミナミゾウアザラシ(2.388 m、2時間)とゾウアザラシの潜水能力もすごい。ニュージーランドアシカでも597 m、14.5分というのもすごい。しかも彼らはエコーロケーションを使えないはず。この本では口のまわりの髭で水流を感じて獲物を探せるとあるが本当だろうか。
この本でも少し書かれているが、マッコウクジラが深海のダイオウイカに代表される巨大イカを主食としているのなら、これまで想像されていたよりも深海には豊富な生物群があるのかもしれない。でも、どうやって深海にたくさんのイカが生息していることを知って、どう進化してきたのだろう。
竜涎香のでき方はまだ詳しくわかっていないようだ。人工竜涎香は作るめどが立っているらしい。マッコウクジラのマッコウは抹香が本当なら、竜涎香とマッコウクジラの関係はアジアでは昔から知られていたのかな。英語ではSpermwhale(脳由を誤解したらしい)という可哀想な名前だけど。
あと、ホッキョクグマの出産は極夜に穴の中で冬眠中に行われるものだと思っていたが、この本では、一方では交尾は春から初夏で出産は1月ころ(着床遅延で最後の2ヶ月が胎児の発育)とあるが、もう一方では妊娠した雌は夏から秋にかけて巣穴に籠もるとある。この部分は同じ筆者だけどどうなっているのだろう。動物番組では冬眠中に子供を産んで(他のクマと同じ)、春になると巣穴から出てくるというものを見ているが…。
ホッキョクグマの雄や妊娠していない雌は獲物のアザラシを狩るのが難しい夏は、代謝を落としてエネルギーの節約をしている(歩く冬眠)をしているという。ただ、この本ではホッキョクグマは他のクマと同様に冬眠中の巣穴では低体温・低代謝になるとしているが、クマの冬眠はあまり体温が下がらないのが特徴だと思う。この辺もどうなのだろう。
大部で総合的な本のように思えるが、一番知りたいことの記述がないので残念な本。
2022年2月記