縄文人と弥生人 坂野徹 中公新書 ISBN978-4-12-102709-2 940円+税 2022年7月
この本は、日本人の起源を解説したものではなく、「日本人の起源論」を解説したものである。今から見れば噴飯物の学説もたくさんあるが、こうしたものも下地になっていったこともわかる。
なにか、祖先の話は多くの人の興味を引きつけるらしい。そしてその祖先は古ければ古いほどいい、また、その後の子孫も“純粋”であればあるほどいいという価値観が深く関係する。だから、学問としての「日本人起源」もこれとは無縁でない。つまり、日本人の起源は古くから日本にあって、それがずっと続いてた。→だから日本人は優秀でエライ、という結論を出したい。
しかも、戦前は「記紀」の記述という制約があった(正直なところ、起源はわずか2600年では、いくらなんでも考古学的資料とは相入れなかったはずなのにと思うけど)。個々人の価値観・世界観と“国家”の思惑が微妙に絡むので、なかなか客観的立場になりづらい学問。
古ければ古いほどいいという歪んだ思い・願望が生み出したのが、旧石器時代の遺物をたくさん発掘したというゴッドハンドF氏事件だ。その根拠がない説を受け入れる素地が、当時の日本の学界にあったのだと思う。もっともこの本では、この問題は扱われていない。
※ 今でも中国の学界の一部には北京原人=現在の中国人の祖先説が生きているらしい。
でも、ようやく最近(ここ数十年)になって、放射性同位元素を使った年代測定とか、ゲノム分析と科学的な手段が当たり前に使えるようになってきた。この結果、「日本人の起源」についても、科学的方法で迫ることができるようになってきた。その成果が埴原和夫の「二重構造モデル」(在来の縄文人と渡来系弥生人の混血が今の日本人(日本列島人)の起源)が出てくることになる。
今後どのような発展をしていくのだろう。そのさい「日本人」という言葉自体も検討の対象になっていくはずだ。
2023年2月記