いま、この惑星で起きていること

いま、この惑星で起きていること 森さやか 岩波ジュニア新書 ISBN978-4-00500954-1 820円+税 2022年7月


 筆者は気象予報士。岩波「世界」に2年間にわたって連載していたものをまとめた本だという。そのためか重複する情報も多く、情報が整理されていない。また、これでもかこれでもかと温暖化が原因とされる現象を羅列していくが、その現象を掘り下げることもない。つまり、地球温暖化とその現象がどう繋がるのかの考察がない。


 ジュニア新書なのだから、連載原稿をほぼそのまままとめるだけではなく、一通り温暖化そのものについての説明もあった方がいいと思う。


 あとがきで「日本ではあまり知られていないマニアックな情報を盛り込もう」ということだが、その根拠が怪しいものもある。たとえば、2020年カルフォルニアの山火事の原因として「赤ちゃん性別発表パーティ」としているが、これは原因の一つなので誤解を招く。さらに今年(2021年?)のイタリアの山火事の原因として、マフィアが火を放ったという“憶測”が流れたともある。憶測では意味がない情報だと思う。


 また、極夜のことを「黒夜」と、「 」付きで書いている。どういう意図で一般的な極夜ではなく「黒夜」を使ったのかの説明がない。


 あとおもに大規模な風系で起こされる海水表面の海流と、深層に及ぶ熱塩循環も一緒に(文では表層の海流、図では熱塩循環)という混乱もある。だから、本文の東オーストラリア湾流が、対応する図12-1では見られない。


 あといろいろなところで「今年 」とあるが、月刊紙連載時はそれでもいいとして、単行本にするからにはきちんと年(西暦)を書いて欲しい。今年がいったいいつなのかがわかりづらい。
 たくさんの話題が必要な人以外は、とくに読む必要はない本だと思う。

 

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目次
はじめに
T章 変調(二〇二〇年一〜一二月号)
 1 アラビア海の最強サイクロン
 2 多発する巨大ハリケーンと熱波
 3 動物たちの受難と生存への努力
 4 前代未聞の異常な気象
 5 生きものたちの変調
 6 コロナがもたらす人道危機
 7 夏のはじめの異常気象
  コラム@ 気象予報士が見ているもの
 8 極地の混乱
 9 干ばつと豪雨――極端になる水の循環
 10 オーバーヒートする地球
 11 もっとも暑かった夏――続発する森林火災
 12 海の変調――環境への未知数の影響
U章 異常気象の先(二〇二一年一〜一二月号)
 13 気象観測の先人たち
  コラムA 「ミスター・トルネード」と呼ばれた男
 14 気候変動クロニクル
 15 異常事態が常態に?
 16 凍りつく出来事
 17 新技術は地球を救うか?
 18 天空の異変1
 19 観測が明らかにする気象の現在
 20 リズムが乱れる生物たち
 21 両極端の地球
 22 温暖化は世界遺産も蝕む
 23 温まる地球と終末時計
 24 暗く熱くなる地球
 あとがき

2022年11月記

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