魚食の人類史 島泰三 NHKブックス ISBN978-4-14-091264-5 2020年7月
“異端”の人類学者、島泰三の本。表題から魚食文化(釣りの技術や調理方法)が人類の進化・拡散とともに、どう伝わっていったのかということを追求したのかと思ったら、過去から現在の化石人類遺跡から魚を食べたあとが出てきたか、出てきたとしたらどのような魚を食べたのかということに終始するだけ。自分の出自が鮮魚商ということを何カ所かで書いているが、それが誇りで、こうした問題に対する優位性をいいたいのだろうが、本質的には意味がない。
何かこだわりがあるのだろうか、一般にはホモ・エレクトスのことを、ホモ・エレックスと書いている。それはいいとして、ネアンデルタール人をホモ・エレックスの直系(ホモ・エレックスの地域的亜種)としているのはどうだろう。まさに異端の説、現在では現生人類の(ホモ・サピエンス)DNAにも、ネアンデルタール人のものが混ざっていることが明らかになっているので(今年のノーベル生理学医学賞の対象)、これは無理があると思う。自身が描いた?ヒト属(ホモ属)の系統樹(p.59)でも、ネアンデルタール人は穂のサピエンスに近い。また、ホモ・フロレシエンセスをホモ・サピエンスの病的矮小化個体群としているが、これも異端の説で、一般にはこちらこそがホモ・エレクトスの系統という方が強いと思う。
化石人類の形態の解析には詳しいが、最新のDNA解析の知見があまり生かされていない。
ということで、正統な人類史の本ではないし、魚食文化史でもないので、一般の人が読むとしたら、内容を鵜呑みにしないで、こういう説もあるんだ程度で読んだ方がいいと思う。ついでに、氏の人類骨髄食進化論も。つまり、正当な学説が必ずしも正しいというわけではないが、それだからといって異端の方が正しいというわけではもちろんない。
目次は裏表紙帯を参照。
※ どこかの組織人だった時代、会議は面倒なので出席することはなかったというようなことを自慢げに書いていた(別な本)。でもそれは、他人に自分の分の仕事を負担させるということなので、こういう人と一緒に仕事をしたくないと思ったことがある。まあ、マダガスカルでのアイアイを初めとするキツネザル科の研究・保護活動は評価すべき人だと思う
2023年2月記