富士山はいつ噴火するのか? 萬年一剛 ちくまプリマー新書 ISBN978-4-480-68432-5 840円 2022年7月
筆者は神奈川県温泉地学研究所に勤務する火山学者。20年ほど前、日本の火山学界は40人学級といわれていた。火山を専門とする学者が40名程度しかない状況を例えたものだ。現在はさらに20人学級とまでいわれるようになってきている。そうした中、筆者は1971生まれということなので、現在50歳前後、たぶん火山学者の中では“若手”だと思う。
※ このためか、日本火山学会の「火山学者に聞いてみよう」は、長らく質問を受け付けていない。
http://www.kazan.or.jp/J/QA/topic/topicindex.html
この本は富士山の成り立ちや構造、そして噴火の歴史などを総合的に解説するものではない。将来噴火することは確実な富士山、その噴火の可能性について述べている。とはいっても、噴火の元となるマグマの状態が現在どうなのかは現在の科学ではわからない、だからいつ噴火するかもわからないときちんと述べているので、それを期待する読者は少しがっかりするかもしれない。逆にいうと、断定的にいう人がいた場合、それは疑った方がいいということになる。日にちなど特定して噴火が“予知”されたとしたら、それだけでデマといっていいと思う。
※ これは地震予知でも同じ。
この本では、噴火が起きた場合の被害のタイプとして、溶岩流、火山灰、さらには山体崩壊を挙げている。溶岩流については、ハザードマップの最長予想、歴史的な最長である山梨県猿橋を遙かに超えて、相模湖まで到達することに対しては少し疑問を呈している。まあ、最長の予想なので、完全否定はできないだろう。
火山灰については、江戸時代とは違う現代社会が、降灰によってどのような影響を受けるのかについて述べている。火山崩壊については過去の例を挙げている。
また、南海トラフ(東部)の巨大地震と噴火の関係、巨大地震が起こると噴火が起こることもあるが、起きないことが多いともある。ただ、噴火や巨大地震、あるいは巨大地震でなくても震源が富士山に近い大きな地震、こうした揺れによって火山崩壊の可能性もあると思う。あの巨大な火山体はがさがさと思われるので。
※ トヨタが建設中の実験未来都市(ウーブン・シティ)は裾野市にあり、ハザードマップでは分厚い降灰、融雪型火山泥流、さらには溶岩流までが押し寄せる可能性のある場所である。こうしたことに対する“防災”も実験するのだろうか。
http://www.city.susono.shizuoka.jp/soshiki/2/1/2/3/1908.html
この本では述べられていないが、やはり一番恐ろしいのは富士山が破局噴火(超巨大噴火、四方八方に火砕流が溢れ出て大きなカルデラを作るような噴火)を起こす可能生も否定できなことだと思う。近くの箱根火山でも過去に起きたわけだし。まあ、これは現在の人類では対処しようもないが。
軽妙な文体、洒脱な例えも多く、これは一般の人対象の講演(質問受付)などの経験が豊富なのだろうか。施設隣の神奈川県生命の星・地球博物館との交流もありそう。
2022年7月記