大絶滅は、また起こるのか

大絶滅は、また起こるのか? 高橋瑞樹 岩波ジュニア新書 ISBN978-4-00-500953-4 860円 2022年6月

 筆者は「また起こるのか?」ではなく、「今起きつつある」と主張する。

 日本のトキの復活(中国から移植)と、オオサンショウウオの危機(中国産と交雑)、両者とも中国からものもなのに、どこに違いがあるのか、筆者は「種」の違いとしているが、これは微妙だと思う。p.37〜39の「種」の違いの説明は恣意的すぎる。

 あと、過去の大絶滅ビッグファイブについて、その原因を一応仮説と断りつつも、一つの説をほぼ確定的に書いているところも気になる。わからないことはわからないと書いた方がいいと思う。

 もう一つこの本で強調しているのは、生態系のバランスという概念。とりわけ捕食動物を絶滅に追いやることの危うさを繰り返し述べている。また、直接の捕食者ではないが、ラッコの乱獲がステラーカイギュウの絶滅を招いた可能性など。そういえば、ジョバンニのお父さんはラッコ狩りに出かけたまま帰ってこなかった。さすがの宮沢賢治も、ラッコ狩りが生態系を乱したなど、思いつかなかったに違いない。

 最後の「アメリカ人留学生に聞いた日本人の自然観」は納得するものがある。公園、神社仏閣ばかりか、里山ですら自然に触れられる場所と思っているらしい人が多そうなので。

 

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目次
 はじめに
序章 絶滅とは何か?
絶滅と誕生はくり返される/絶滅はなぜ問題なのか?
  《コラム》レッドリストとレッドデータブック
1章 ラッコが消えて、カイギュウも滅んだ――生きものの輪と絶滅の連鎖
ステラーカイギュウはなぜ絶滅したか?/原因はラッコ?/カイギュウを支えていた「生きものの輪」/ゴキブリなら、絶滅してもいい?/分解者たちの仕事/人間は、思い通りに自然をコントロールできるのか?
2章 いろいろな種類の絶滅――日本のトキは絶滅をまぬがれたのか?
日本のトキは絶滅をまぬがれたのか?/トキはよくて、オオサンショウウオはダメ?/トキとコウノトリの復活/そもそも生きものの「種」とは?/見た目で種を決める!――形態学的種の概念/子孫を残せるかどうかで種を決める!――生物学的種の概念/系統樹をつくって種を決める!――系統学的種の概念/「系統学的種の概念」は万能か?/属の絶滅と科の絶滅/恐竜は絶滅していないし、鳥は爬虫類だ
  《コラム》リンネの分類法が世界を変えた!
  《コラム》その生きもの、持ち出さないで!――ワシントン条約
3章 5度の大絶滅・ビッグファイブと、6度目のいま
ビッグファイブ――過去5度の大絶滅/カンブリア大爆発(5億4000万年前)/1度目の大絶滅??オルドビス紀末(4億4500万年前)/2度目の大絶滅――デボン紀後期(3億7400万年から3億5900万年前)/3度目の大絶滅――ペルム紀末(2億5200万年前)/4度目の大絶滅――三畳紀末(2億100万年前)/5度目の大絶滅――白亜紀末(6600万年前)/そして、6度目の大絶滅――現在進行中/6度目の大絶滅はまだ起こっていない!
4章 消えゆく生きものたち――大絶滅は止められるのか?
人間の進化・移動とメガファウナ(大型動物)の絶滅/猛獣たちのいない世界/猛獣たちはいなくていいのか?/リョコウバトのマーサ/キタシロサイのナジンとファトゥ/カエルが消える/サンゴも消える/なぜ弱い人間が地球の支配者になれたのか?/大絶滅は止められるのか?
  《コラム》人間が滅ぼした生きものたちを検索する
5章 大絶滅時代を生きる私たち
「環境に優しい国」で目にしたショッキングな事実/バッファローが絶滅した地で、バッファローで熱狂する/この国にも、あの国にも、ウシガエル/スヴァールバル世界種子貯蔵庫/誰にも食べてもらえない果実/寄生虫の卵を飲んで元気になろう!?/オーストラリアの森林火災/新型コロナにたくされたメッセージ/人新世――手つかずの自然はもうすでにない
6章 大絶滅時代を生き抜く
沈黙の春のあと、ハクトウワシはよみがえった/オオカミを復活させるという決断/キットカットを食べるとオランウータンが絶滅?/日本全国に広がる草の根的な保全活動/SDGsウェディングケーキ/里山資本主義で環境にも人にも優しい暮らしを/君のチョイスが世界を変える
  《コラム》アメリカ人留学生に聞いてみた、「日本人は自然環境に配慮した人たち?」
 あとがき

2022年7月記

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