地球外生命 小林憲正 中公新書 ISBN978-4-12-102676-7 900円 2021年12月
この分野の第一人者が語る生命とは何か。とくに太陽系内の生命生存の検討に詳しい。具体的には火星、木星の衛星エウロパ、土星の衛星エンケラドス。これらは液体の水がある(かつてあった)ことはほぼ確実な天体。ただ、液体の水といっても表面にあるのではなく、地下や分厚い氷の殻の内側ということになる。つまり、これまでの“ハビタブルゾーン”は、恒星からの距離によって決まる惑星表面に液体の水の存在が可能は範囲ということだったが、“表面”という制約を取り除けば、もっと柔軟に考えられる(筆者は「拡張ハビタブルゾーン」といっている)。やはり、地球での熱水噴出孔とそのまわりの、太陽光に依存しない生態系の発見が大きなインパクトだったと思う。恒星のエネルギーに頼らなくても、地熱があればいいのだから。
※ これら衛星の内部に液体の水が存在している(存在できる)ということについて、木星・土星による潮汐力を挙げている。ただ、木星・土星のまわりを回る衛星は公転周期と自転周期が同期している(同じな)ので、潮汐力による衛星の変形(→内部で摩擦熱発生→液体の水)は考えづらい。潮汐力は、木星・土星の引力の他に、これらの衛星以外の衛星の引力による潮汐力の影響の相互作用だと思う。
もう一つ検討されているのが、土星の衛星タイタン。タイタンは表面温度が低いので、メタン、アンモニアも液体としての存在が可能。とくにタイタンの場合は、メタンの湖(海?)や、そこに流れ込むメタンの川の存在が明らかになったので、水を利用する生物とは、まったく違う、これまでの生命とはかけ離れた“生命”がいるかもしれない。ただ、水と違ってメタンは分極していない(物質を溶かし込みにくい)ので、水よりは不利なことは確か。でも、自然には何しろ有り余る時間があるので液体の水の代わりにメタンを利用するものが登場する可能性がある。ただ、温度があまりにも低いので、つまり化学反応の速度があまりにも遅いので高分子の合成には不利、でも逆に考えればもし合成されれば分解されにくいという利点もある。温度が低いことは致命傷ではないと思う。が、生命があったとしても、生命現象はきわめてゆっくりゆっくりなので、生命と認識するのは難しいかもしれない。
筆者の考える生命の起源は、がらくた分子→がらくたワールド(高分子)→RNAワールドというものだが、タンパク質合成が先行する可能性の否定していない。この辺はまだよくわかっていないということだと思う。
さらにパンスペルミア説にも少し触れられている。ただ、地球外の生命が誕生して、それが隕石・彗星などで地球に運ばれたものが地球上の生命の起源だとしても、では、宇宙でどうやって生命が誕生したのかという疑問に即繋がる。生命の起源の解答の先延ばしだと思う。
今後の生命探査で気をつけなくてはならないの、探査機が地球から地球の生物を運んで対象を汚染してしまう危険性と、逆にサンプルリターンで地球外生命を持ち帰ってしまう可能性があり、国際的にいろいろな約束事があるようだ。ただ、すべての国がそれを遵守してくれるかは、少し心配。
この本の最後に、今後、人類の生存を脅かす可能性があるいくつかの事象も検討している。
さらにあとがきで、「生命の起源については“これで決まり”」というのがあれば、それだけでその本は信じられないとある。その通りだと思う。
そして、共感するのは、人類だけが進化系統樹の最先端、最も優れた生命ということではなく、今地球上にいる生命すべてがこれまでの地球代激変を生き延びてきたものであるということ、もうひとつ「我々が宇宙の中心ではないこと」「政治や社会の問題における「自己中心主義」「○○ファースト」「分断」といった」といった、現在の世界の平和と公正を脅かす思想・行動からの脱却を促す」ということ。
いずれにしても、自分のこれまでの知識と考えを大幅に変更するものでなかったことに一安心。
目次
はじめに
第1章 地球外生命観 古代ギリシャから今日まで
第2章 生命の誕生は必然か偶然か
第3章 知的生命のへの進化 地球をモデルケースとして
第4章 火星生命探査
第5章 ウォーターワールドの生命
第6章 タイタン 生命概念の試金石
第7章 太陽系を超えて
第8章 生物の惑星間移動と惑星保護
第9章 地球外生命から考える人類のルーツと未来
あとがき
参考文献
2022年2月記