東電原発事故10年で明らかになったこと

東電原発事故10年で明らかになったこと 添田孝史 平凡社新書 ISBN978-4-582-85966-9 840円 2012年2月

 当時の事故調(政府・国会・東電・日本原子力学会の4つもあるって?)が取り入れることができなかった、この10年間で行われている裁判での証言をたくさん引用している。

 貞観地震などの知見も知られ、東電内部でも津波対策の再検討(バックチェック、新しい知見が得られたら、それを踏まえてすでに作られた施設も再検討)を考える人もいたようだが、結局は経営優先、先延ばしとしていく中で、あの津波が来てしまったことを丁寧に明らかにしていく。

 さらにその際、うるさいことをいいそうな学者たちにもあらかじめ根回し(名前の挙がった有名地震学者数名、「絶対起こる」とはいえない学者の言葉を利用)、さらに電力業界でのかばい合い(津波対策工事をやっていることを公表すると、対策をとっていない東電に迷惑が掛かるという忖度)など、いろいろやっていたことも明らかにしている。政府(官)−電力会社(民)−(一部の、でも原子力関係ばかりではない)学者(学)の相互依存。

 当時の民主党政権のドタバタは、結局民主党政権崩壊に繋がったと思う。でも、自民党政権でも同じだっただろう。だれもが、当時、実際に原発で何が起きていたのかがわからなかったのだから。これは、この本のいう東電の隠蔽体質以前の、もっと根源的なこと。

 いずれにしても、裁判の多くはまだ続いているわけで、原告団の高齢化が進んでいくという事実がある。長期裁判は日本の裁判の特徴かもしれない。ある意味人権を侵していると思う。そして、「まだ最高裁がある」というのが、政府・東電側の言葉になるだろうという予測も。

 筆者は長く朝日新聞の科学部にいて、2011年にフリーになったという。この件がきっかけなのだろうか。1970年代〜80年代の朝日には、露骨な原発推進論者O.Y.氏もいたなぁと思い出してしまった。いまでも、同じ考えなのだろうか。

 各電力会社、原発再稼働には津波対策はやるだろう。だが、大災害は想定外で起こる。この本でも少し述べられているが、次の想定外は、超巨大噴火(破局噴火)か。過去10万年間で7回、100万年間で25回程度。最新は、7000年ほど前の喜界カルデラ。超巨大地震が起こる間隔よりも長い。でも、起きている。自然界にとっては普通の出来事。そのさい火砕流はもちろん、大量の火山灰が降ったら原発の冷却はできなくなるだろう。

目次
はじめに
第1章 福島第一原発で何が起きたのか
第2章 事故はなぜ防げなかったのか
第3章 事故の検証と賠償は進んだか
第4章 原発はいまどうなっているのか
あとがき
主な参考文献

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2021年3月記

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