太平天国

太平天国 菊池秀明 岩波新書 ISBN978-4-00-431862-0 860円 2020年12月


 キリスト教を謳う洪秀全が起こした、清朝末の大規模な反乱(1851年〜1864年、大政奉還が1867年)。ただそのキリスト教は、キリスト教宣伝パンフレットに感激し、神の告知を聞いたとする洪秀全独自のもの、側近にはシャーマン揚秀清を置き、また中華思想(反満州族、華民族は偉い思想)というものだった。また、神の元では万民平等も、「人は平等である。でも、一部の人はもっと平等」というものでしかなかった。


 だが、そうした怪しげなイデオロギーの元でも、末期清朝、対外的な圧力に苦慮していた(典型がアヘン戦争)ときの政権ではまともに対応できるものではなくなっていた。どちらかというと、太平天国の理想と現実(一貫した政策のなさ)、首脳部の内紛(洪秀全以上の存在になろうとした揚秀清粛正、優秀な武官李秀成の冷遇など)のために自滅した感じが強い。この本では、「もし、だったら、」も多く語られている。


 昔から現在に続く中国指導部内の、あるいはもう少し一般的な独裁政権内部の熾烈な権力闘争と、独裁者の疑心暗鬼についてはそうだろうなと思うところがある。


 この内戦によって数百万人が死んだという。当時の中国の人口は3億人程度(※)と推定さているので、人口の1%くらいになる。たしかに大変な犠牲者。でも、帯の「史上最悪」については「最悪の一つ」が正しいと思う。ロシア内戦(1917年〜22年)では餓死者も含めて800万人程度が死んだといわれているし、内戦とは少し違うが粛正では数百万、うっかりすると千万人のオーダーの犠牲者が出ている可能性がある。さらに、中国の文化大革命でも数十万〜千万人オーダーの犠牲者が出ている可能性もある。


※ 中国の人口については岩波新書の「人口の中国史」で、人口が1億人を超えたのは、18世紀になって人口爆発が起こってからということを知った。春秋戦国時代、あるいは三国志の時代、ものすごい数の兵員を動員しているので、昔からものすごい人口だったのだろうと思っていた

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2021年1月記

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