真説日本左翼史

真説日本左翼史 池上彰 佐藤優 講談社現代新書 ISBN978-4-06-523534-8 900円 2021年6月

 とりあえずは戦後の1960年代まで。佐藤優氏の名前は知っていたが、彼の文章(これは対談を起こしたものだが)をまとめて読むのは初めて。

 全4章のうち、第3章がスターリン批判の影響の章となっている。たしかに、このスターリン批判とハンガリー動乱をどう評価するかが、当時の左翼にとっては大問題で、今日まで尾を引きずっていると思う。とくに70年代初頭まで。つまり、戦前の大弾圧を非転向で貫いた人たちが指導する当時の日本共産党は、その頃の“進歩的”文化人にとっては批判しにくい存在だったと思う。これで桎梏がなくなったと思った人と、そうでない人に別れた。これについてのその後は、今後出版される次号になるそうだ。

 筆者の一人、佐藤優氏はもと社青同解放派だったそうで、社会主義協会などの社会党の内部事情に詳しい。池上彰氏も社会党左派に詳しいという。この本では共産主義者の中の講座派と労農派の対立も書かれている。労農派の中心人物の一人向坂逸郎の評価も、自分の認識に近い。すなわちあれだけ日本共産党を批判できるのに、東ドイツなどを理想社会と思い込んでしまった矛盾。講座派とも労農派とも違う宇野弘蔵は次に登場?

 現在の日本共産党の流れを作った上田兄弟(上田耕一郎・上田建二郎(不破哲三)) と宮本顕治の対立など、共産党員(それ以上に支持者・シンパ)の多くの人たちは知らないだろうなぁと思われることも書いている。共産党は市民運動に対するアクセスにぶれがあるようで、この本ではまだ扱われていない“ベ平連”(1960年代半ば〜70年代初め)に対する否定的な評価、それに対して「安保法制」(2015年)のときに出てきたSEALDsに対する肯定的(甘ぁ〜い)評価は、この対立が根にあるように思う。

 社会党(若い人は知らないかもしれない政党)の雲散霧消のルーツらしきものも、この本で書かれている。決定打は政権に参加、さらに首相まで出したこと(まさにバブルだった)にあったと思うが、それについての詳しい話も次の本らしい。とりあえず、当時の社会党(ベ平連も)の資金源(のひとつ)を明らかにした「クレムリン秘密文書は語る 闇の日ソ関係史」(名越健郎、中公新書)も読んでみよう。

 いろいろな文化人・有名人に声かけをしている(らしい)共産党も、この二人には声かけていないようだ。社青同解放派だった佐藤氏はまあそうかもしれないが、池上氏はなぜなのだろう。何か気にくわない点があるのだろうか。潮(創価学会系)からは両者とも声がかかったことがあるという。そういえば、若い人は宮本顕治と池田大作の対談(松本清張がお膳だて)も知らないだろうなぁ。

 次号(が出るとすれば)1960年代からの話になる。自分でも体験した時代なので、この二人によってどのようにまとめられるのか、本が出たら読んでみようと思う。

目次
はじめに
序章 「左翼史」を学ぶ意義
第一章 戦後左派の巨人たち(1945年〜1946年)
第二章 左派の躍進を支持した占領統治下の日本(1946年〜1950年)
第三章 社会党の拡大・分裂と「スターリン批判」の衝撃(1951年〜1959年)
第四章 「新左翼」誕生への道程(1960年〜)
おわりに

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2021年8月記

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