生物はなぜ死ぬのか

生物はなぜ死ぬのか 小林武彦 講談社現代新書 ISBN978-4-06-523217-0 900円 2021年4月(2021年4月第2刷)

 ヒトは、そして生物はなぜ死ぬのか、それはずっと生き続けることはできないからだという程度しかわからない。筆者は一つはそれが生命が“死ぬ”という進化をしたからという。つまり、つねに新しい個体が生まれていくという進化。逆にいうと、だから進化できるということ。

 ただヒトは特殊で、ほかの生物は食べられて死ぬか、食べられなくなって死ぬか、つまりほとんどが“ピンピンころり”なのに、ヒトの死因では、老化による病、さらには”老衰”そのものが多くの割合を占めるようになってきてている。では、なぜ老化するのかということになる。筆者それに対して、細胞レベル、さらにはDNAレベルでの老化のメカニズムにも言及する。DNAの複製ミスや破損、さらには活性酸素の働きなどを揚げる。また、DNA複製の回数(細胞分裂の回数)には上限があり、幹細胞ですら、それを超えることはできないということ。でも、不思議なのは子供はカウントがリセットされていること。どうしてだろう。

 あとひとつ、ヒトが特殊なのは死に対する恐怖心があること、筆者はこれが人の優しさ、つまり身近な人が亡くなったときに受ける深い衝撃と悲しみを知っているからだといっているが、どうだろう。たんに死の前の苦痛や痛み、さらには死が未体験で未知なことが大きいと思う。

 もう一つ、筆者は日本などの先進国の少子化を大変に憂えていて、このままでは100年持たないとの危機感も持っている。筆者はハダカデバネズミ(齧歯類のなかでは異常に長寿、低代謝)の生理・生態に興味があるようで、ここでもハダカデバネズミ的社会を提案している。つまり生むことに特化した個体を作るのはヒトの社会では無理だとしても、子供を産むカップルに対しては、特にたくさん生めば生むカップルほど手厚い援助政策をとるべきという。たしかにこれは必要かもしれないが、筆者の全体的な考えも見ると違和感がある。

 個人的には地球上に人類は多すぎる(産業革命以後の人口爆発)、これが有限な地球を圧迫していることが大きい、長い目で見れば地球システムにおける人口に対して負のフィードバック(この本では負のスパイラル)がかかっているような気もする。だから少子化の未来、世界の人口がもっと少ない社会のほうが持続可能なので、少子化自体はそれほど悪いとは思っていない。ただ現在は、少子化=社会の高齢化があまりにも速く進んでいること、とくに日本のように世代間扶養システム(若い人たちで高齢者を支える)ではその矛盾が目立ってしまうということだと思う。

目次
はじめに
第1章 そもそも生物はなぜ誕生したのか
第2章 そもそも生物はなぜ絶滅するのか
第3章 そもそも生物はどのように死ぬのか
第4章 そもそもヒトはどのように死ぬのか
第5章 そもそも生物はなぜ死ぬのか
おわりに

seibutsuhanazeshinunoka-01.jpg (72714 バイト) seibutsuhanazeshinunoka-02.jpg (110436 バイト)

2021年6月記

戻る  home