最新科学が映し出す火山

最新科学が映し出す火山 萬年一剛 KKベストブック ISBN978-4-8314-0239-4 1,400円 2020年10月

 自分はいろいろと時代遅れになってきていて、たとえば、この本で解説されている火成岩の分類。いまはその化学組成で、二酸化ケイ素含有量を横軸に、アルカリ元素(Na、K)を縦軸にしたグラフにプロットして、入った領域で岩石名をつけているという。ただ、じっさいは日本ではアルカリ元素を多く含む火成岩はあまりないから、従来の(高校教科書の)二酸化ケイ素含有量で問題ないともいうので一安心。さらにこれは当然だが、連続して変化するそれぞれの岩石の化学組成を、人間側が分類するために無理矢理どこかで線引きをしているので(たとえば二酸化ケイ素含有量52%が玄武岩と玄武岩質安山岩の境など)、何何%などは覚える必要もないとか。

 さらに噴火の形式とか、規模の分類も、それほど”標準”というものはなさそうだ。この本では噴火の形式は、単純に噴煙の高さとしているが、これも“標準”ではないようだ。噴火の規模も、日本では早川由紀夫氏の噴火マグニチュードがよく使われているが、世界的には噴火規模は火山爆発指数(VEI)の方が多いとか。

  また、水蒸気爆発も、最近は水蒸気噴火ということが多いという。火山ハザードマップ(噴火の影響を示したもの)と防災マップ(さらに避難対象、避難先、避難方法も示したもの)の意味の違いも意識したことはなかった。

  さらにこの本で繰り返し述べられているのは、本当の意味での「噴火予知」、つまりどの火山が、いつ、どの程度の噴火(規模と形式の両方)を予知することは現在まだできないということだ。一見うまくいったように見える2000年の有珠山の噴火予知も、いろいろな条件がそろっていたために、犠牲者を出さないですんだだけ、以後の噴火についてはまったくできていないという現実。逆にいえば××火山が××年××月××日に噴火するというような情報はデマといえるということになる。これは“地震予知”も同じだと思う。

 また、この本では、火山についてはわからないことがたくさんあるということも繰り返し述べられている。その一つの理由が火山噴火の間隔が(特に一つの火山においては)、研究者の研究生活の長さ(せいぜい50年程度?)を超える場合が多いことが揚げられている。一つの噴火で日本のほとんどを壊滅させる超巨大噴火(カルデラ噴火)などは、観測できたことはもちろん、体験できた学者はいない(もし体験できたとしても、その経験を伝えることはできないだろう)。

  そしてじつは業務として火山観測と噴火警戒レベル判断の責を担っている気象庁には、火山の専門家はいないということ。もちろん、専門に担当している人はいても、大学−大学院と火山を学び、研究してきた人はいないという意味。そもそも、火山学者は20年前には自分たちで40人学級といっていたくらい、現在では30人学級かそれ以下になっていると思う。火山学を学べる大学はものすごく限られているし、そこを卒業しても専門を生かせる職業に就くことは非常に難しいだろう。まあ、多数の犠牲者を出した御嶽山の噴火(2014年)の状況を見れば、そのお寒い観測態勢は明らかだと思う。地震学も厳しい状況だろうが、火山学の方はもっと厳しい。世界の活火山の一割が日本にあるということを考えると、危険な状況にあるともいえる。

 富士山の噴火についても述べられているが、宝永噴火規模の噴火が起これば、電力・交通・通信(もちろんインターネットも)など、江戸時代とは比べものにならないくらい脆弱な社会になっているので、被害は大変なものになるだろうともいっていて、これはその通りだと思う。

  冒頭近くに、かんらん岩を融かしても(厳密には部分溶融させても)んらん岩質マグマにはならずに、玄武岩質マグママグマになるということを、固溶体であるかんらん石の相平構図(この本では相図)をもとに説明している。固溶体相平衡図を出すのなら、ついでに固溶体を作らない鉱物同士の相平衡図(かんらん石−輝石−石英など、漫画として水−食塩の相平衡図)を出した方が、マグマが冷える過程で突然に鉱物の組み合わせが変わるということもわかるようになると思う。

  ただ、相平衡図の見方は理系の学生でも躓くというということなので、ここはもっと単純に、岩石の温度を上げると融けやすい成分から融け始めて、そのときにできた液体を取り出すと元の岩石全体の成分とは異なっている、逆にマグマを冷やすと固体(結晶)になりやすい成分からけっしょうになって沈殿していくので、その沈殿した固体部分は元のマグマ全体の組成と違うというように簡単に逃げて、より原理的に知りたい人のためには、巻末に相平衡図を使った説明を加えた方がよかったかもしれない。

  あと、マントルは長い目で見ると流動するという説明で、固体が流れる例として氷河を出している。正しいのだが、多くの人は氷河は底が滑って移動していると思っているのではないか。なので、氷河の例を出すときにはもう少し説明が必要だと思う。

 筆者は神奈川県温泉地学研究所に所属、神奈川県にはもう一つ生命と星博物館という研究者を擁する施設がある。神奈川県は電力も少し独自に供給している(相模川水系)珍しい自治体だと思う。ほかに噴火の恐れが大きい火山を抱えている自治体(都道府県レベル)でも、国に頼らないでこうして研究施設を作ることはできないのだろうか。

※ 内容は裏表紙の帯の目次を参照

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2021年6月記

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