密約の戦後史

密約の戦後史 新原昭治 創元社 ISBN987-4-422-30059-7 1,500円 2021年2月

 非核三原則(政府は、核兵器を持たず、作らず、持ち込まさずの非核三原則を遵守する(1971年11月24日衆議院決議))の「持ち込まさず」が有名無実であることは、多くの人はわかっていたと思う。核兵器を積んだ米艦船・航空機が、日本に立ち寄るときにだけ核をどこかに預け、日本を離れたら再び積むなんてあり得ないからだ。でも、長らく政府は守らせていると主張し、米側は核を搭載しているのか否定も肯定もしないという態度を貫いてきた。

 だが、アメリカの公文書公開にともないこうしたことは真っ赤なウソであったことが、公文書でも明らかになっていった。筆者はアメリカに飛んで公文書を確認し、また核兵器を持ったまま立ち寄ったということを、アメリカ議会(上下両院原子力委員会)で証言した元提督ラロック氏にも直接インタビューして、持ち込みの事実を確認していく。

※ アメリカの公文書公開でも、肝心の所は黒塗りの場合もあるようだ。でも、きちんと公開しているとはとてもいえない日本よりもまだましだ。

 全体に、核兵器については悪の根源はアメリカであり、日本の世論動向は気になるものに(革新系の伸長を恐れ)、日本の政権首脳部は基本的にはアメリカの要望を密約、場合によっては口頭で容認することを続けてきたという論調である。ある程度は正しいと思う。だが、アメリカの核の問題は、当時のソ連、また核を持つようになった中国(北京政府)との関係という視点が欠かせない。とりわけ、1955年6月25日に事実上の国境であった北緯38度線を越えて、いきなり南進を始めた金日成軍(ソ連、中国(北京政府)の了解の元に)の行動が、アメリカ軍が核を持って太平洋西部に展開することに(軍の一部は核の使用も主張)、絶好の口実を与えたことは間違いない。まあ、この本でも北朝鮮軍が先に軍事行動を起こしたとは書いてある。

 核そのもの評価も、当時は「きれいな原爆、汚い原爆」論争があったりして、日本内部でも混乱していたと思う。

 筆者は共産党系の人らしく、出てくる日本の政党は日本共産党、団体も共産党系(たとえば原水協だけ)と、少し党派性が強すぎると思う。密約問題でも、毎日新聞西山記者の件については全く触れていない。何か理由があるのか、不思議な感じもする。つまりこの本だけだと、密約問題を明らかにしてきたのは、共産党だけということになってしまう。

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2021年4月記

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