クモの糸でバイオリン 大崎茂芳 岩波科学ライブラリー254 ISBN978-4-00029654-0 1,200円 2016年10月(2017年8月第3刷)
クモの糸でぶら下がったり、トラックを引っ張たりした筆者が、今度はクモの糸で実際に演奏できるバイオリン弦を作製。本業は別にあるようだが、こちらの方にも並々ならぬ情熱を傾ける。
当然クモの糸を集めることから、つまりクモを集めることからはじめ、クモが枝からすーっと垂れ下がるときに使う糸(牽引糸(もちろんネバネバしない))を巻き取って、またそれを撚って丈夫な糸を作る。いまのところ、人工的にクモの糸の特性を持ったものは作られていないらしい。つまり高温(250℃)にも耐え、また弾性係数も高い(ねじっても丸い繊維が変形しないナイロンに対し、繊維自身が変形して隙間を埋めていく)という特性を持ったものが。
筆者は自分でバイオリンを習い自分でも音を出せるようにして、またプロのバイオリストにも弾いてもらい、もちろんバイオリンの音を測定して、倍音がたくさん含まれる豊かな音を出すという、バイオリンの弦としての特性も確認する。
このような研究なので学会誌に載せてもらいにくいので、四苦八苦、作戦も立ててようやく学会誌PRL(Physical Review Letter)に載せてもらえることになる。こうした苦労話も。
もちろん、PRL誌側も抜け目なく宣伝。そして世界的フィーバーとなる。外国のプロのバイオリストからの、是非その弦を使わしてもらいたいという熱烈なオファーもあったようだ(実現したのだろうか)。
コラムで普通のバイオリンの弦の説明もある。ナイロン弦といってもアルミ板を、それも二重に巻いていたり、ガット弦といっても、やはり金属でまわりを巻いているものあるという。いろいろと改良が進んでいるようだ。
目次
1 クモのことをもっと知りたい
クモとの出会い/クモの巣のいろいろ/7種類の糸を使い分け/クモの命綱/行く先々でクモを採集/クモとのコミュニケーション
〈コラム〉タバコの煙でクモが暴れる
2 クモが繰り出す魔法の糸
柔らかくて強い/クモの糸の不思議な構造/クモが教える安全対策/高温に耐える/紫外線で強くなる/水を吸って縮む/ヒトはクモの糸にぶら下がれるのか?/クモの糸でトラックを牽く
〈コラム〉人工クモの糸の夢
3 バイオリンに挑戦!
音楽に参戦/バイオリンを購入/音楽大学を訪問/クモの糸で音が出た!/長い糸がほしい/弦づくりで悪戦苦闘/バイオリンのレッスンに通う/クモの糸の弦の作りかた
〈コラム〉バイオリンの弦のいろいろ
4 魔法の糸の音色の秘密
「よい音」とはなにか/バイオリンでの音色解析/ストラディバリウスを超える?/弦のユニークな構造/どこに投稿するか?/PRL誌に出そう/レフリーとの激しいやりとり/やっと論文が受理
〈コラム〉名器ストラディバリウス
5 音色が世界を駆けめぐる
学会発表とその反響/取材対応でヒヤリ/ヨーロッパからの切なる願い/ヒット数が5億件!/海外マスコミから依頼が殺到/響け,アメージンググレース
おわりに
参考文献
2021年3月記