飼いならす

飼いならす アリス・ロバーツ 斎藤隆央 明石出版 ISBN978-4-7503-5085-1 2,500円 2020年10月


 1年ほど前に読んだ「家畜化という進化」(リチャード.C.フランシス、白揚社)とダブるところが多い。ただ、こちらの方は動物だけだった「家畜化という進化」では扱っていない、栽培植物(コムギ、トウモロコシ、ジャガイモ、イネ、リンゴ)も扱っている。原産地から拡大の経路地図も欲しい。


 人為的に分布が拡散する過程で、交雑が起きているというのは12月に読んだ「進化38億年の偶然と必然」(長谷川政美 国書刊行会)でも書かれていた。現世人類も例外ではなく、アフリカから出て世界中に拡散していく過程で、ネアンデルタール人や、(まだ謎が多い)デニソワ人との交雑があったなど、もう当たり前のように書かれていて、この分野の進歩の速さには驚く。


 そういえば、若いころはイヌでさえ、起源には諸説あってジャッカル説(たしかD.モリスなど)もあったと思う。もうこれは、オオカミ説で確定したようだ。


 とくに栽培植物の遺伝子組み換えについては、慎重な言葉遣いながらも、期待しているようだ。それは全世界の人たちを飢えさせないための技術と考えているからだ。ただそれが巨大企業の利益にしかならない可能性も心配している。そして現在の「食糧危機」は配分の不公平という、社会・政治・経済の問題ともいい切っている。これはその通りだと思う。


 人類の「自己家畜化」については、慎重なフランシスに比べて肯定的だ。まあ、いろいろな見方があって当然だと思う。


 単一種ばかりの栽培になる危険性、さらには地球環境に影響を与えている人類の活動、こうしたものにも警鐘を鳴らしている。


 筆者はイギリス人、コムギ文化で育ってきたので不思議に思わないのだろうが、そのまま煮炊きして食べないで、わざわざ粉にして水で練って焼くというムギの調理方法(パンにするという方法)、あく抜きのためではなさそうなのに不思議だ。これがいつのころにどこで始まって(起源前遙か前から三日月地帯やエジプトではパンをたべていたらしい)、さらにイースト菌を加えるという画期的な進歩はどうなのか、などコムギ(ムギ)はそのまま食べない文化の拡散も興味深いと思う。

kainarasu-01.jpg (321160 バイト) kainarasu-02.jpg (327030 バイト)

2021年1月記

戻る  home