花粉症と人類

花粉症と人類 小塩海平 岩波新書 ISBN978-4-00-431869-9 800円 2021年2月

 35年ほど前に突然発症した。止まらない鼻水と微熱。当時はまだあまり知られていなくて、医者に行っても風邪という診断しかなかった。数年経つと、知名度も上がり、それなりの薬も処方されるようになった。最近は、薬を飲んでいれば症状はほとんど出ない。

 この本はまず、人類が花粉をどのように認識するようになったのか、そして花粉症が花粉症として認識されるようになったのはいつ頃からなのかなどを説いていく。

 あのハムラビ法典にナツメヤシの人工授粉も書かれているという(栽培者の義務と権利)。また、ダーウィンが花粉や花粉症にも興味があったこともびっくり。ミミズやハトだけではないんだ。

 花粉症が認識され始めたころは、花粉症は社会的エリートが多く罹るものだと思われていて、憧れの病気だったそうだ。いまではサルも花粉症になることがわかっている。

 この本でも書かれてるように、花粉の外殻(スポロポニレンという有機物)はとても頑丈で、強酸・強アルカリ、石英も溶かすフッ化水素でも壊れない、なので地層中に長く残るというものだ。それをあっさり水にするといううたい文句で、怪しげなマスクが売られている。

 この本で、プロ野球の田淵引退も、彼が発症した花粉症のためだとあり、そういえばそうだったと思いだした。ただ、全体としてはスギの花粉症についてはあまり詳しくはなく、ブタクサの記述が多い。スギは悪者にされること多い、たしかに春先に山でびっしり花粉をつけたスギを見るだけで、花粉症が発症しそうだが、日本の荒れた山を地道な植林(スギが多い)で緑に変えていった先人の努力を忘れてはならないとも思う。

 この本の最後の方に、筆者が開発したパルカット(トリオレイン酸ソルビタン乳液の農薬)が紹介されている。スギの雄花を選択的に枯れさせることができるばかりか、スギの球果をすみかとするカメムシ(農作物を食べる害虫)の発生も抑え、スギの成長を促進するという。たしかに、林野庁森林総合研究所が開発しているスギ黒点病菌により雄花を選択的に枯らすという方法は、いつその”変異株”が誕生するかもしれないという、潜在的な危険性があると思う。

 この本で残念なのは図版が極めて少ない、章扉の絵以外ではダーウィンの花のスケッチしかない。代表的な花粉の写真くらいは欲しかった。

目次
もくじ
はじめに
第1章 花粉礼賛
第2章 人類、花粉症と出会う
第3章 ヴィクトリア朝の貴族病? イギリス
第4章 ブタクサの逆襲 アメリカ
第5章 スギ花粉症になることができた日本人
第6章 花粉光環(コロナ)の先の世界
あとがき

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2021年3月記

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