北極探検隊の謎を追って バエ・ウースマ ヘレンハルメ美穂訳 青土社 ISBN978-4-7917-7357-2 2,200円 2021年4月
水素気球で北極点を目指したが失敗した探検隊・アンドレー探検隊の死因をさぐる。曖昧な記憶で、気球で北極点を目指し、あえなく失敗した隊があったことは知っていたが、詳しいことはまったく知らなかった。
1897年7月11日にスヴァールバル諸島(ノルウェー)を出発、じつはわずか3日後には墜落(ガス漏れ)、87日後にはクヴイト島にたどり着くも、そこで日記は途絶え、3人の隊員の消息は1930年に偶然遺体で発見された。食糧・燃料・医薬品・武器弾薬(狩りやシロクマ対策)は潤沢にあったのに、なぜ死んでしまったのか、諸説乱れるも結局はよくわからない。このことに興味を持った筆者(女性)は、イラストレーターだったが、後に医師になったという経歴を持つ。その医学的な知識をも使って、彼らの死因を、実際にクヴト島までにも行くなど執念を持って確認しようとする。結論的には、いくつかの説を否定、あるいは否定はできない程度にしかわからないという結末になる。
一酸化炭素中毒説×
テント内で酸欠死×
海藻スープ中毒説×
壊血病説×
ホッキョクグマの生肉を食べたための旋毛虫説×に近い△
アザラシの肝臓を食べたためのビタミンA過剰説△
ボツリヌス症説 アザラシ肉は× 缶詰は△
低体温症説 ×に近い△
缶詰による鉛中毒説×
銃撃説 ストリンドベリは流れ弾の可能性あり、殺人×
ホッキョクグマ襲撃説
ストリンドベリは可能性高い、もう一人(フレンケル)も△、アンドレーは×
モルヒネ説 ストリンドベリ× フレンケル△ アンドレーも可能性
挿話として、一番若い隊員ニルス・ストリンドベリ(彼が撮影した写真が残る)の婚約者アンナ・シャーリエの話がある。他の人と結婚して生涯を終えるが、その遺体の心臓だけ火葬されて、灰を入れた小さな銀の櫃ががストリンドペリの墓に入れられたという。
ノルウェーで探検家として、アムンゼンやヘイエルダールよりも、つまりもっとも尊敬されているというナンセン(ナンセン隊)のような、北極圏で生き残るためのノウハウが全くなかったという印象がある。それ以前に気球がガス漏れを起こしやすいことを知っていたはずなのに、それを甘く見過ぎていたということだったと思う。事前のテスト飛行などを繰り返すべきだったのだ。とくに帆を張って気球を誘導することや、また誘導策(ガイドロープ)を地面に垂らして浮力を調整して高度を保つ(※)などは、事前にかなり練習しなければ、その技術は習得できなかったと思う。そもそも誘導策を離陸後すぐに失ったために、気球の高度が上がりすぎてガス漏れしやすくなったという。
※ これ、かなり前の深海潜水艇にもついていたと思う。船底から垂らした鉄のロープが海底に着くと、鉄のロープが海底を這う部分が長くなるほど、潜水艇の水中での重さが減っていき、ある程度ロープが海底を這った時点で浮力と釣り合い、潜水艇本体が海底に接触しないという仕組みと同じ。
※ クヴィト島の場所はこちら。
https://goo.gl/maps/dxdQDBmP7z35dg9Q7
![]() |
![]() |
目次
1.アンドレー隊とわたし 一つのラブストーリー
2.陸地 氷の海の外れ、フルカラーの海岸
3.空中 極北の叢氷のただ中へ
4.氷上 影の落ちない未踏の地
5.消息不明 何もわからず残された人々
6.発見 偶然見つかった探検隊、私の探索は新たな段階へ
7.言葉の奥へ ぼろぼろの日誌に残されたメッセージ
8.体の中へ 知られざる記録
9.痕跡 分析できそうな断片を探す
10.回り道 やらなくてもよかったかもしれない
11.最期の日々 パズルを解く
12.氷の島 ついにたどり着いた場所
13.一緒に行けない ラブストーリーの悲しい結末
訳者後書き
参考文献・資料
謝辞
2021年4月記