円周率πの世界

円周率πの世界 柳谷晃 講談社ブルーバックス ISBN978-4-06-520675-1 1,000円 2021年6月

 高校程度の数学で、円周率πに迫る。その過程は数学史、それも天才史観ではなく、天才も多くの“ふつう”の数学者が築いた礎があって、初めてその才能が発揮できるとして、あまり名も知られていない多くの数学者を発掘する。

※ 森毅だったと思うが、ガウスの死後日記が公開されて、たしかに彼は50年先んじていたことが明らかになったが、逆に多くの“ふつう”の数学者が束になれば、50年で追いつくことができることをも示しているとあった。 

 もうひとつ、πの世界とは直接結びつかないがゼロの発見について、それはインドではなくバビロニアで、位取りのための記号としてゼロ(に該当するもの)を使っていたという。ただ、数値としてのゼロ(零)はなかったという。後のインドの場合は、数値としてのゼロ(零)と、位取りゼロの両方を使っていたということで、近代的なゼロ(0)は、やはりインドかもしれない。

 円周率πの値を求める式としてarctanがよく使われるが、その級数展開的表現(マクローリン展開)について、もう少し具体的に説明した方がわかりやすいと思う。つまりarctan x = x - x^3/3 + x^5/5 - x^7/7 …も示してくれれば、一番簡単な π/4 = arctan1 とか、マチンの公式(π = 16 arctan(1/5) + 4arctan(1/239))を使って実際に数値計算ができる。

 あと、表紙の帯にオイラーの等式 e^(iπ) +1 = 0 が出ている。本文ではあっさりオイラーの公式 e^ix = cos x + i sin x 使って、オイラーの等式 e^(iπ) +1 を出している。でも、オイラーの公式が使えればオイラーの等式はいわば当たり前なので、どうしてこの公式が出るかの説明も必要だと思う。さらに、オイラーの等式自体は、円周率πと自然対数の底e の間の不思議な関係を示すものだと思うが、それについても触れられていない。

 最後の章でπの値の計算競争の話になる。いろいろな式が導き出されているんだと思った。まあ、arctanを使ったものが多い。パソコンで挑戦する人もいるらしい。

 不思議な数学者ラマヌジャンが予想した式 1/π = 2√2 /9801 (Σ(4k)! (1103 + 26390k)/(k!)^4 ×396^(4k)) も出ている。どうしてこんな数式が頭に浮かんだのだろう。

目次は裏表紙の帯を参照。

 

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2021年10月記

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