絵でわかる日本列島の誕生

絵でわかる日本列島の誕生 堤之恭 講談社 ISBN978-4-06-522945-3 2,300円 2021年5月

 プレートテクトニクスの立場から、日本列島全史を組み立てようとする意欲的な本。プレートテクトニクスの“拒絶と受容”の現場を見てきたものからすると感慨深いものがある。このために数十年の後れをとったといわれる日本の地質学からも、ようやくこうしたた一般向け解説書も出てくるようになったかと。

 この本では前半で地球科学、とりわけプレートテクトニクスを説明し、後半で全日本列島史を解説する。

 ただ、こうした日本列島の歴史の組み立ては始まったばかりで、議論が残っていることをも多い。つまり定説がない場合が多い。この本でもいくつかの説が並列で書かれていたり、さらには「筆者の妄想がいくぶん含まれていることを念頭に」と、あらかじめ断ってから解説を始めたりとか。なので、まだこうしたものだという注意が必要。

 あと、この「絵でわかる」シリーズの対象(想定している読者層)は、あまり専門的な知識のない人向けのはずだが、かなり難しい。解説図(少しわかりにくにものもある)以外のイラストは確かに素人向けの可愛い感じだが。

 たとえば、年代をMaと書くことに統一したこと。550Maは5億5千万年前と書いた方がわかりやすいと思う。専門用語もぽんぽん飛び出てくるが、索引で確認するのは面倒なので、本文に出した専門用語については用語集も欲しい。p.62の地質年代表の“紀”が略号でかかれていて、気になった場合は巻末の詳しい地質年代表を見て確認しなくてはならない。

 あと、p.20のプレートの動きがオイラーの定理に従っているということを出すのなら、その証拠、つまり回転軸の極を90°としたとき、ある場所の動きの量がコサイン(cos)に比例していること(プレートの沈み込みの速さ)を出した方が親切だと思う。

 極めつけは、放射年代の求め方。p.84で式がたくさん出てくる。そもそも、放射年代は放射性同位元素の崩壊速度はその親元素数に比例するという微分方程式があり(とはいってもdN/dt = - λNというもっとも単純なもの、すなわち N = N0(exp(-λT) Nは親元素数、N0は最初にあった親元素数(初期値)、λは崩壊定数)の説明もなく、いきなりその解である複雑な式が出てくる。だが、実際に難しいのはN0(初めにどのくらいの親元素があったのか=初期値)の合理的な推定をどうするのかで、そしてまたその推定が何を意味しているのか(どういう年代を測っているのか) がキモのはず。なので、この部分をわかりやすく説明した方がいいと思う。

 ということで、この本は一般向けというよりも、少なくとも理系の大学を出たものでないと読みこなすのは難しいと思う。まあ、難しいところは読み飛ばして、全体を「総合的・俯瞰的」に読めればいいかもしれません。

※ この本では日本酒造りに適した水の解説もある。筆者はお酒、それも日本酒好きなのだろうか。確かに地質屋さんの多くはお酒に強いイメージがある

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2021年8月記

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