鳥獣戯画展(2021年国立博物館特別展カタログ) 編集:東京国立博物館 NHK NHKプロモーション 朝日新聞社 2021年4月
京都高山寺が所有している甲巻〜丁巻のすべてを90%の縮尺で見ることができる。全470ページを超える、持つだけでも重い大型本。ただ、巻物でなく本という制約からページの裏表になったり(これは少し重複して載せているので実害はない)、ページの見開きの部分(のど)に架かったり(カエルと相撲をとって投げ飛ばされたウサギなど)があったりするがやむを得ない。
高山寺所有のものは欠損、あるいは順序が錯綜している部分もあり、右から左に進行していくお話としては、ほかで収蔵されていた部分などで補填して、順番に並べ替えた方がわかりやすい。甲巻では競馬(競鹿)から始まり、動物たちの供宴がヘビの登場でお開きになる最後という順。
登場する擬人化された動物のなかで多いのがウサギ、カエル、サルであり、逆に動物のままなのがシカ(ウマの役目)、イノシシ(供物)。ウサギとカエルは仲がいいようだが、サルは少しずる賢くて、競馬(競鹿)では先行するウサギの耳をつかんだり、仏に化けたりして供物をもらったり、最後にはウサギとカエルに追っかけられている場面もあり、少し進むとひっくり返ったカエル(気絶? 殺された?)もいて、犯人はあの逃げているサルかとなったり。
このカタログでは特別展のテーマでもあった高山寺と、その開祖明恵(みょうえ)上人(鎌倉時代初め、後鳥羽上皇と同時代)の話も1/3位の分量を占めている。それはそれなりに面白く、とくに明恵上人の直情怪行ぶり、思い込んだら命がけという個性、さらに当時は全くの神仏混淆、僧侶でありながら春日大社にもお参りに行っていたりしている。また、戦乱の世の中で、夫を失った女性のための尼寺(善妙寺)もつくったらしい。
もちろん、いくら高山寺が由緒あるお寺といっても、鳥獣戯画はこのお寺や明恵上人がその製作に関わったことはなく(それより以前のもの)、だれが、何の目的で製作したのか、またどのようなストリーだったのかは、以前謎のままである。
解説者たちは大変鳥獣戯画に入れ込んでいて、それはもちろん当然だが、“戯画”という扱い、さらに漫画のルーツという評価に不満な人が多いようだ(そんな陳腐なものではなく、もっと偉大といいたい?)。なかには「対象の表面的な視覚的描写の滑稽さを「笑う」ことは、現代社会において最も避けなければいけないことである。それは時代を遠く隔てた世界の事物を笑うことにほかならず、自らの理解に及ばないものをみて、笑うことと同じなのである。」と、こちらにとってはまったく意味不明なことを述べている人もいる。いろいろな見方、感じ方があり、つまりカエルに投げられたウサギのように楽しく笑ってもいいと思うので。
2021年6月記