地球生命誕生の謎

地球生命誕生の謎 カラー図解アストロバイオロジー ガルゴー/マーチン/ロペス=ガルシア/モンメルル /パスカル 藪田ひかる監訳 西村書店 ISBN978-4-86706-0019-3 4,500円 2021年6月

 表題の「アストロバイオロジー」そのままの本。ただ、カラー図解とあるが素人向けとはいえない内容。本文とは別枠とはいえ、数式・化学式がばんばん出てくるので、ある程度の理系の素養は必要。ただ、本文だけを追いかけても、全体の様子はわかるので、そういう読み方も可能。

 地球生命の誕生について、宇宙の中の太陽−太陽系の起源、地球の起源と原始地球(すなわち生命誕生の舞台)、生命誕生を担った物質、そして原始的な生命の系譜など。生命誕生と進化。ただし、生物の進化はエディアカラまで。

 この本の原著は2009年のフランス語版の英訳版(2012年)、ただし、新しい発見が相次ぐ8章(地球外の惑星、地球以外の生命の世界)だけは、大幅に改訂されたという。この分野の進歩の速さを思うと、本当の最先端からは少し遅れた内容かも知れない。でも、全体を網羅するには、十分だと思う。

 この本の特徴は、“これで決まり”という説を中心に解説をするのではなく、いろいろな説を併記して、それぞれの利点・欠点を評価しているところにある。なので、すごくバランスが取れているという印象がある。だから、“これで決まり”とすっきりしたい人には、物足りないかもしれない。

 地球最古の鉱物は、44億400万年前のジルコンで、地球形成(45億6800万年前)のわずか1億6000年後、もうこの頃には“海”があったという。つまり、マグマオーションはあっという間に冷えたことになる。ただそのときの状態、原始地球大気や原始地球海洋の組成などにはまだ議論があるようだ。

 この本では、“後期重爆撃”(40億年前〜38億5000万円前にあったといういん石の集中落下)を重要視している。この辺は日本のこの種の本とは少し違う印象。また、この本では地球生命誕生について、この“後期重爆撃”以前の可能性をいっているので(この章の前に最初の生命の章がある)、せっかく誕生した生命の生き残りシナリオも考えなくてはならない。

生命の基本分類、バクテリア(細菌)、アーキア(古細菌)、真核生物の関係についても、諸説を並べて評価している。さらには、真核生物の起源についても。下世話な話になると、生前は有名だったカール・セーガン(この本でも少し名前が出る)よりも、共生説のリン・マーギュリス(かつてカール・セーガンの妻)の方が名を残しそう。

 プレートの沈み込み帯(この本では当然ながらベニオフ帯と表記)におけるマグマ発生の歴史的変遷なども、日本の類書にない解説になっていて興味深い。

 少し日本語がこなれていない箇所や、明らかなミスプリ(校正漏れ)もあるが、意味は取れるので問題ないと思う。生命の起源を議論する際に起こる、宇宙科学、地球科学(地質学、地球物理学、地球化学、地史学、鉱物・岩石学など)、生物学、生化学などの“方言”による意思疎通の齟齬に対して、相互の共通理解を得るためにこの種の本は必要だと思う。

目次
1章 太陽と惑星の誕生
2章 地球の形成と初期進化
3章 水・大陸・有機物
4章 インテルメッツォ(間奏曲):物質のプロセス(非生命)と最初の生命が誕生ずるまで
5章 後期重爆撃イベント
6章 太古の岩石からのメッセージ
7章 生物が多様化した惑星
8章 地球以外の惑星、地球以外の生命の世界
エピローグ
資料 岩石の分類

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2021年8月記

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