絵本・筑豊一代

絵本筑豊一代 画:山本作兵衛 原作:王塚跣 石風社 ISBN978-4-88344-303-1 1,500円 2021年5月

 原作者の名字の一文字“王”から早とちりをして(本名は大塚正)、炭鉱で働いていた中国人労働者の回想録かと思ってしまった。そうではなく、「炭鉱犠牲者の碑 復権の塔」建立に尽力した、宮田市(現若宮市)の宮田教会の牧師、服部牧師がこの塔の建設のために全国を行脚したときに使った20枚の紙芝居を元にした絵本。子供向けの絵本とするために「大人の世界」を描いた5枚を省いて15枚の絵と、文からなる絵本である。山本作兵衛の絵は、ユネスコの世界記憶遺産に登録されているが、この絵本の絵はそれからははずれているそうだ。

 話の内容は、捨て子だったという過去に始まり、様々なヤマを炭鉱労働者として転々と渡り歩いたその過酷な現場、息子も炭鉱で働くことになるが(測量技師)、本人が炭鉱で働き始めたころの“黒いダイヤ”の時代はすでに終わって(その時代でも現場は過酷な環境)、石油の時代になり始め、労働争議も多発する時代になっていく。そして組合活動家になっていた息子は炭鉱事故で死に、本人も炭鉱関係の事故(穴が開いた炭鉱の吸い込まれる水に巻き込まれる)で死んでいくという話。

 別に世界記憶遺産から外れているといっても、山本作兵衛の絵の魅力は変わらない。「大人の世界」も、作兵衛のほかの出版物からはある程度想像が付くが、外された5枚の絵も入ったバージョンも欲しい。

 残念ながら、作兵衛の画集は断捨離して、手元に残っているのは葦書房(※)のパピルス文庫(新書版)の2冊(筑豊炭鉱絵巻 ヤマの暮らし(上下))のみ。これはカラー写真が少ないという欠点はあるが、まだ彼の偉業があまり知られていなかったころの(全国的知名度が低かったころの)ものだという貴重性があると思う。

※ 葦書房は新しい出版は行っていないようだが、古書店としては続いていて、上記筑豊炭鉱絵巻2冊も入手可能です。

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2021年6月記

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