父を撃った12の銃弾

父を撃った12の銃弾 ハンナ・ティンティ 松本剛史訳 文藝春秋 ISBN978-4-16-391336-0 2,200円 2021年2月

 父サミュエル・ホーリーが盗んだ車で寝泊まりしながら、一緒に移動生活している娘ルー(ルイーズ)・ホーリー。娘が12歳になったとき、アメリカ北東部の港町(マサチューセッツ州オリンパス)で定住生活をすることになる。ここはサミュエルの妻、ルーの母リリーの実家、いまでもリリーの母(ルーの祖母)のメイベル・リッジが住んでいる町だ。でも、メイベル・リッジはサミュエルを毛嫌いしているようだ(事故で死んだリリーの死に不審を持っている)。

 よそ者を受け入れない閉鎖的な町、漁師の仕事を始めたサミュエルはほかの猟師たちから嫌がらせを受けるし、ルーは学校でひどいいじめに遭う。我慢に我慢を重ねた父娘が猛烈な暴力をもって反撃する。そして父は町の伝統行事に参加することによって、嫌がらせをした漁師たち(息子たちがルーをいじめていた)と和解するし、娘もそれ以後いじめを受けなくなる(仲良くなったわけではない)。なぜか、娘の学校の校長ダンダーソンは父娘を気にかけている。どうも若い頃リリーに憧れていて、メイベル・リッジもそれを応援していたようだ。校長が経営しているレストランで(校長がサイドビジネスを営んでいるという感覚も不思議)、孤立していたサミュエルが採ってきた魚介を買ってくれるし、暴力沙汰を起こした娘ルーにも寛大で、いろいろな便宜も図ってくれる。

 もう一人、ルーをいじめていたマーシャル・ヒックス、彼もルーの猛反撃に遭って指を折られてしまう。彼の母メアリー・タイクスは、このあたりの海を禁漁区にしようとしている環境保護活動家(だから漁師たちには嫌われている)、かつルーもバイトを始める校長のレストランでウエイトレス。マーシャル・ヒックスは漁師の息子たちとは少し違う雰囲気。でも、メアリー・タイクスがサミュエルに言い寄ろうとして(サミュエルはもてる)、ルーに暴力を振るわれる。

 という具合に話が始まる。上からわかるようにサミュエルは堅気ではなかった。いまでも、ライフル、マグナムなど銃器を多数持ち歩いているし、12歳になった娘に銃を与えて射撃も教えている(これが後に一つの事件を起こす)。その父の体には多数の銃撃を受けた傷跡がある。物語はルーのその後の成長の話と(初恋や起こした事件など)、サミュエルが受けた銃撃の跡を過去から現在に一つ一つ追っていく話(よくぞ生き延びてきた)を交互に織り交ぜながら進んでいく。

 そして、娘のためにも過去をすべて精算しようとするサミュエルが動き出すことによって、物語は緊迫のクライマックスを迎える。

 久しぶりに読んだハードボイルド的な小説だった。なかなか面白い。でも、人を殺傷できる武器を平気で持てるということが背景にあり(もちろん許可証は必要)、しかも父が娘に銃の扱いを教えたりとか、この辺がアメリカの現実社会なのだろう。大人、子供の社会でも“いじめ”があるところは世界共通か。

目次
目次
ホーリー
グリーンシーポール
     銃弾#1
女やもめ
     銃弾#2
ドッグタウン
     銃弾#3
ファイアーバード
     銃弾#4
風見
     銃弾#5

     銃弾#6
花火
     #7、#8、#9
パンドラ
     銃弾#10
冷凍庫
     銃弾#11
起こったこと、起こっていること、これから起こること
     銃弾#12
ルー

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2021年6月記

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