江南の発展(南宋まで(シリーズ中国の歴史2))

江南の発展(南宋まで(シリーズ中国の歴史2)) 丸橋充拓 岩波新書 ISBN978-4-00-431805-7 820円 2020年1月

 全5巻予定の中国の歴史の第2巻目。長江という場所(現代中国でいえば南の方)に焦点を当てて、王朝では春秋戦国時代の楚・呉・越から南宋まで。当時から中原に対する微妙な意識があったところ。しかし、暴れ川の黄河と違って比較的安定した長江、北からの避難民などにより人口が増えても、新しい開拓地もできて発展する。

 中国社会は日本や西洋の家・村・ギルドが固定的ではなく、科挙による昇進の可能性もあるが、流動性も高く(多くのアウトロー)、つまり、家や村が個人を規制もするが保護もするとや逆に規制はしないが保護もしないという社会で、筆者はそうした中でも相互扶助を「幇の関係」(友達の友達は友達、助け合う関係)といっている。たしかに中国大衆小説には、血縁でない“義兄弟”が命をかけて助け合う場面がよく出てくる。
 封建制から郡県制に移って、中央から官吏が派遣されても、科挙の試験を受けられるような財力のあるのは地方豪族で、官吏も結局は地元に戻れば中央から来る官吏と共存共生の仲、正しき地方官が地域のボス(豪民・胥吏(しょり、行政事務代行)を懲らしめるということは、実際にはほとんどないという。

 古くは「塩鉄論」にある王朝経済の問題は、王安石の新法(収入増・支出減をはかる)と、それに対する批判(民と利を争う)という、今と同じような路線対立も解説されている。

 江南はまた、そこから海にも進出して、東南アジアからインドばかりではなく、アフリカまでもがその範囲だったという。もちろん日本との交流も倭の時代から断続的にあり、遣隋使・遣唐使が廃止されたのは、公的な使節を出さなくても、民間の交流で十分、実際に多くの僧が中国へ学びに行っているし、平氏や奥州藤原氏のように貿易で財をなす者も出てくる。

※ 中国社会は流動的、多くのアウトローがうまれやすい、それが歴史上何回も起きている“××の乱”を担う実体ともなっていた。これを一変させたのが共産党中国ではないだろうか。現在の(現在も)、中国の戸籍は農村戸籍と都市戸籍にわけられていて、農村戸籍から都市戸籍に変わることは事実上無理だと思う。都市部における不法滞在者が安い労働力として使われるという、どこかの国でもあるようなことが起こる根拠でもあろう。

 

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目次
いま 、中国史をみつめなおすために――シリーズ 中国の歴史のねらい(執筆者一同)
はじめに
第一章 「古典国制」の外縁――漢以前
 一 長江流域の諸文化
 二 「楚」の血脈
 三 「古典国制」と対峙する人びと
第二章 「古典国制」の継承――六朝から隋唐へ
 一 南からみる『三国志』
 二 江南の「中華王朝」
 三 六朝の貴族たち
 四 隋唐帝国と江南
第三章 江南経済の起動――唐から宋へ
 一 運河と海
 二 文臣官僚の時代
 三 花石綱
第四章 海上帝国への道――南宋
 一 金・モンゴルとの対峙
 二 江南の繁栄
 三 海上帝国の形成
第五章 「雅」と「俗」のあいだ
 一 俗――地域社会の姿
 二 雅――士大夫のネットワーク
おわりに――ふたたび、若者の学びのために
あとがき
 図表出典一覧
 主要参考文献
 略年表
 索 引

2020年4月記

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