世界の起源

世界の起源 ルイス・ダートネル 東郷えりか訳 河出書房新社 ISBN978-4-309-25402-9 2,400円 2019年11月
 宇宙の起源→地球の起源→生命の起源→人類の起源と歴史という通史ではなく、様々な断面、たとえば金属の使用とか、大航海時代とかの自然科学的な背景を、おもにプレートテクトニクスの概念を用いて説明をする。

 着眼点は面白いと思うが、こういうものにつきものの結果オーライ主義である。たとえば、なぜネアンデルタール人やデニソワ人ではなく、現生人類だけが繁栄して「プレートテクトニクスの申し子」になったのか、必然か偶然かということには触れられていない。また、プレートテクトニクスといっても、まだ諸説あるなかの一つの説を前提にするところも目につく。人類の進化の速さと、プレートテクトニクスの動きの速さは時間スケールが違うので、全部を無理矢理結びつけると、どうしても牽強付会的な感じとなって説得力に欠けるものが出てくる。

 それにつけても、こうしたことをもプレートテクトニクスの立場から説明しようとする人が、それもプレートテクトニクスはもう当たり前のこととしている時代になったことには感慨がある。なにしろ、1960年代から80年代までは、日本の地質学者のかなりと、ごく一部地球物理学者たちは、プレートテクトニクスを拒絶していた、それも“団体”として拒絶していたという時代があったということを知っているので。この問題については、こちらを参照。
https://www.s-yamaga.jp/dokusho/2008/platetectonicsnokyozetsu.htm

第9章の「エネルギー」のところで、核融合炉に期待しているのには脱力。
 恒星の核融合反応は4H→He(厳密にはP-PチェーンとCNOサイクルの2種類)としていいが、人類が核融合反応として目指しているのはD-D反応(重水素−重水素反応)と、D-T反応(重水−トリチウム(三重水素)反応)である。「地上に太陽を」というキャッチフレーズがまずごまかし。
 
 D-D反応は点火温度が5億度といわれていて、これはちょっと無理なので、とりあえず目指しているのはD-T反応、こちらなら点火温度が1億度というので、これならできるかもしれないとしてもう70年以上、でもまだできない。

 燃料の一つであるD(重水素)は海水から抽出できるとあるが、たしかに実際にできるが、そんな面倒なことをしなくても、処理が簡単な淡水から抽出すれば、人類のエネルギー源としては十分。ここでも一つのごまかし。

 より酷いごまかしは、T(トリチウム、三重水素)の方は、自然界に事実上ないので、リチウム(地球上ではその存在はきわめて偏在、またバッテリーの素材でもあるのでそれとも競合)に中性子を浴びせて作らなくてはならない。つまく、核融合炉の燃料を作るためには核分裂炉が必要になる。そして、その燃料であるT(トリチウム)は半減期12.3年という放射性物質で、β線を出す。D-T反応路は、核分裂炉の存在が前提で、トリチウムという放射線物質を燃料とするので、とてもクリーンなエネルギー源とはいえない。
 そればかりか、D-T反応自身、D + T → He + n(中性子)なので、中性子を放出することになる。つまり、核融合炉そのものが中性子の発生源となるので、炉を分厚い鉄やコンクリートで覆う必要がある。だが、こうした炉を覆った素材も中性子を浴びることによって劣化する。劣化するばかりか、新たな放射線源を作ることにもなる。

 だから、核融合炉はとても小型の太陽でもなく、クリーンなエネルギー源でもないので、エネルギー問題の救世主とはなり得ない。

 もし、D-D反応炉が実用化したとしたら、放射能の問題はなくなるし、量的な問題も事実上なくなるが、今度は「熱汚染」というまたまったく別な問題が生ずることになる。つまり、人類が地球上でエネルギーを生み出せば、これは地球の気温を上げることになり、あるところで熱暴走が始まる可能性がある。熱暴走した結果は金星の世界。これについては、下を参照。
https://www.s-yamaga.jp/kankyo/kankyo-kankyo-3-1.htm

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目次

序 章
第1章 人類の成り立ち
  地球寒冷化 / 進化の温床 / 樹上から道具へ
  気候の振り子 / プレートテクトニクスの申し子の人類
第2章 大陸の放浪者たち
  寒冷な時代 / 天空の時計じかけ / 温室から氷室へ
  脱 出 / 波及効果 / 島 国
第3章 生物学上の恩恵
  見つかってから失われた楽園 / 新石器の革命 / 変化の種
  後戻りできなくなった時点 / 野生を手なづける / 性革命
  文明のAPP / 世界の発熱 / ユーラシアの利点 / 給水塔
第4章 海の地理
  水を富に変える / 内 海 / シンドバッドの世界
  香辛料の世界 / 交通の難所 / 黒い動脈 / 黒い帯
第5章 何を建材とするか
  生物由来の岩石 / 木材と粘土 / 石灰岩と大理石
  チョークとフリント / 火と石灰岩 / 地殻の汗 / 足下にある地層
第6章 僕らの金属の世界
  青銅器時代の到来 / 海底から山頂へ / 錬鉄から鋼鉄へ
  星からの鉄の心臓 / 世界が錆びたとき
  ポケットのなかの周期表 / 絶滅危惧元素
第7章 シルクロードとステップの民
  東西のハイウェイ / 草の海原 / 立ち退かされた民
  ローマ帝国の衰退と崩壊 / パクス・モンゴリカ
  一つの時代の終わり
第8章 地球の送風機と大航海時代
  海の回転??航海者たちの革新的な方法 / 嵐の岬へ / 新世界
  地球の送風機 / モンスーンの海へ / モンスーンのメトロノーム
  海の帝国 / グローバル化に向けて
第9章 エネルギー
  太陽と筋力 / 動力革命 / 化石になった太陽光
  石炭をめぐる政治 / 黒死病 / 仲介役の排除
終 章
 謝 辞  訳者あとがき
 原 注  引用文献
 参考文献

2020年4月記

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