生物はなぜ誕生したのか ピーター・ウォード、ジョゼフ・カーシェヴィング 梶山あゆみ訳 河出文庫 ISBN978-4-309-46717-7 1,200円 2020年4月(2016年単行本の文庫版)
表題の英文は A New History of Life : The Radical Discoveries about the Origins and Evolution of Life on Earth 。そのとおり、新・生命全史という内容。筆者たちの説・考えを全面的に押し出した本、いわば彼らの説のプロパガンダ本。彼らの熱い思いを語った厚い本(全568ページ)。そういう意味では非常に面白い。でも全部をそのまま信ずるのはきわめて危険だと思う。
ひとことで彼らの進化観をまとめると、“天変地異説”ということになろうか。自分の学生時代は、済一説が“科学的”といわれていて、「現代が過去を解く鍵」という言葉がキャッチフレーズだった。それが一変したのは、あのアルバレス父子のK-Pg境界(当時はK-T境界、白亜紀−古第三紀の境界、恐竜絶滅境界)に対するいん石衝突説(1980年)だったと思う。初めはとんでもないと受け取る科学者が多かったようだが、10年くらいで定着したと思う。
この本では他の大絶滅、爆発的進化をすべて天変地異で説明しようとしている。とりわけ彼らが重視するのが、大気中の酸素濃度。彼らによると、大気中の酸素濃度はシアノバクテリアによる酸素発生以後も、数%〜30数%、古生代カンブリア紀以降でも10数%〜30数%の範囲で変動し、低酸素のときに大絶滅が起こり、酸素濃度回復時に生き残ったものたちが爆発的な進化を遂げるという。
もちろん、酸素濃度増減の証拠や、そのメカニズムの説明もしている。大規模な火山活動、大陸の集合離散、あるいは著書の一人が提唱し始めたスノーボール(全球凍結)などによる植物の光合成量、陸地の風化量、さらには大陸の集合離散による地球内部質量の分布の違いによる極(地軸)移動など。最後の極移動はもちろん、そもそも酸素濃度の歴史を正確に把握するのはいまでも難しいと思う。だから、全体としては壮大な生命詩(Lifepoetry)ということになろう。
この本では、その天変地異は地球内部に原因があるという立場で、宇宙線バースト説などは証拠がないと一蹴しているし、K-Pg境界もいん石衝突はとどめの一撃で、それ以前から多くの生物種は絶滅し始めていて、その原因はシベリアの玄武岩洪水噴火だと述べている。
表題の「生物はなぜ誕生したのか」については、生命全史なので冒頭、つまりこの本では一部にしか過ぎない。ただ、この本では火星起源説(一種のパンスメルミア説)をとっている。これも議論が多い、少なくとも現在では少数派だと思う。
最後の方で、「人類の種としての寿命」という言葉が出てくる。なんとなく種としての寿命というものがあるのかなぁとは思うが、生物系の人には人気がないようだ。
2020年4月記