シリーズ中国の歴史(4) 陸海の交錯

シリーズ中国の歴史(4) 陸海の交錯 壇上寛 岩波新書 ISBN978-4-00-431807-1 860円 2020年5月

 シリーズ全5巻のシリーズ本も、いよいよ第4巻目。裏表紙の帯にあるように、明の時代も(1) 中華 vs 夷狄 (2) 華北 vs 江南 (3) 大陸中国 vs 海洋中国であり、最後の漢民族、それも江南出身の帝国(まあ、中華人民共和国も江南出身の帝国かもしれない)。

 ただ、これまでと少し違うのは、夷狄と海洋中国の中に“倭”が入ってきたことかもしれない。鄭和を最後に海洋進出から手を引き鎖国に入ったことが、倭寇が”活躍”する場を作ることになる。また、一見荒唐無稽な秀吉の明征服計画も、弱体化した明王朝にとっては一定限の脅威だったようだし、じっさい明は夷狄である清(満州族)に滅ぼされたわけなので、少しのリアリティはあったのかもしれない。倭寇のつながりで鄭成功の台湾亡命政府もあったのだろう。

 日本とのつながりは微妙で、南北朝のころは南北競っての朝貢合戦(現地で殺し合いも)、これは要するに朝貢することによって得られる膨大な利益合戦、でも信長以降は明の国力が衰えたことによる互いの意識の違い。でも、文禄・慶長の役で捕虜になったり、明が滅んだときに日本に亡命した明関係者も多く、赤穂浪士の一人もその子孫(さらにいうと孔子の子孫)だったはずだ。そういう意味では、日本とも結構交流があったといえるのかもしれない。

 明の歴代皇帝の中には、皇帝としての職務に関心がなく、”接待を伴う”遊びに惚けていた者も数名いるようだが、それでもそれなりに国が動いていたということは、官僚組織が確立していたからだろう。もちろん、それは明の弱体化につながっていくわけだが。

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目次
いま、中国史をみつめなおすために――シリーズ 中国の歴史のねらい(執筆者一同)
はじめに
第一章 明初体制の成立
 一 元末の反乱と明朝の誕生
 二 絶対帝制の確立
 三 社会統制策と他律的儒教国家
第二章 明帝国の国際環境
 一 中華の復興と朝貢一元体制
 二 永楽帝の積極外交
 三 中華と夷狄の統合
第三章 動揺する中華
 一 明初体制の弛緩
 二 朝貢一元体制のほころび
 三 明代史の転換点
第四章 北虜南倭の世紀
 一 嘉靖新政の幻想
 二 辺境地帯の騒擾
 三 朝貢か互市か
第五章 爛熟と衰勢の明帝国
 一 張居正の改革と挫折
 二 流動化する社会
 三 変容する東アジア
第六章 明から清へ
 一 政争と混乱のゆくえ
 二 明朝滅亡
 三 混沌の帰趨
おわりに
あとがき
図表出典一覧
主要参考文献
略年表
索 引

2020年7月記

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