オランダ商館長が見た江戸の災害

オランダ商館長が見た江戸の災害 フレデリック・クレインス 磯田道史解説 講談社現代新書 ISBN978-4-06-518179-9 960円 2019年12月

 長崎の出島に1年間の任期で赴任した商館長は、公務日記を付ける義務と(東インド会社から)、江戸に参内する義務(幕府から)を負っていた。その日記に記された江戸と長崎、また道中で遭遇した災害の記録。

 江戸城の天守閣をも燃やした明暦の大火に遭遇したワーヘナールはまさに、命からがら、そして運良く助かっている(日本人従者一人は亡くなっている)。逃げる際、逃げる群衆で前に進めない状態だったのに、幕府に献上するダチョウに驚いた人々が道を空けてくれたというエピソードは面白い。また、悲嘆に暮れるワーヘナールとは対照的に、被災を笑い飛ばす日本人にもびっくりしている。まあ、ほとんど毎日といっていいくらいに火事が出るような街に暮らすのには、そのくらいの心構えが必要だろう。もっとも、家族を失って呆然とした人たちがいたことも記録している。復興の速さも驚きだったようだ。

 宝永地震(1707年)のときは、長崎でも津波被害が出たようだ。これは知らなかった。ネットで調べると、唐船の品物を入れていた倉庫が水に浸かった、津波高は3.1mとあるが、人的被害は出ていないようだ。

 オランダでは地震はほとんどないので、歴代の商館長(や駐在しているオランダ人)は地震がとても怖かったようだ。また、富士山や普賢岳の噴火を見聞きしたりした、日本は自然災害が多い国という印象、さらには上に書いたように火事がきわめて多い国という印象も持ったようだ。それにもかかわらず、災害があってもあっという間に復興に向かう人々にも感心している。あと、東インド会社から経費節減を命じられていて、痛んだ商館の修理費や、街の復興費の寄付を求められたりもしていて、商館長はなかなか大変そう。

 外国人が書いた災害記なので、それなりの価値はあると思うが、被害の全体図、とりわけ犠牲者の数は伝聞情報なので、あまり信頼は置けない。

 全体に、商館長の報告と、著者クレインスの解説が混じっていて、商館長の生の声が伝わりにくいという印象がある。磯田道史の解説(全体の背景)のように、商館長の記録とクレインスの解説ときちんと分けた方が、商館長自身が見聞きしたことの印象がよくわかると思う。

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第一章 明暦の大火を生き抜いた商館長ワーヘナール
 新商館長に就任/火の用心/江戸参府/なぜ江戸に火事が多いのか/面会を求める人びと/大目付・井上政重邸にて大火に感づく/長崎屋に駆けつける/重要書類、現金をどうするか/古代都市トロイのように燃える/迫って来る炎/避難民で溢れる通り/職務に忠実な役人/門前払いと江戸時代の「自由」/小屋で夜を過ごす/三つの火事/食糧価格の高騰/長崎屋の人びとの安否/炎に飲み込まれた江戸城/将軍の蔵/夜に響く子どものうめき声/江戸城崩壊は天罰だったのか/江戸の悲惨な姿/浅草門の惨状/源右衛門への援助/粥の施行/江戸を去る/火災に敏感な長崎奉行
第二章 商館長ブヘリヨンがもたらした消火ポンプ
 新任商館長ブヘリヨン/十七世紀オランダで改良された消火ポンプ/江戸の復興/ダチョウのおかげ/大火の爪痕/家綱への謁見/政重が取り寄せた消火ポンプのゆくえ/ヨーロッパに伝わった明暦の大火
第三章 商館長タントが見た元禄地震
 唐人屋敷の火事/巨大地震の衝撃/命よりも大事な槍印/天罰説と市井の不満/愛妻の安否を気遣う長崎奉行/江戸参府の決行/ジレンマ/命がけの川越え/箱根峠で実際に見た被害/小田原の被害状況と藩主の尽力/東海道沿いの被害/江戸の復興活動/地震の力に驚くオランダ人/困惑する綱吉/崩壊した江戸城/綱吉への謁見/余震に揺れる江戸/二度目の登城/被災地を後にする/宝永元年能代地震/商館長メンシングが見聞した宝永地震の災害
第四章 商館長ハルトヒと肥前長崎地震
 商館の庭に避難するオランダ人/五島列島の甚大な被害/絶望と神頼み/オランダ人のテント生活/被災最中の江戸参府の準備/大工との交渉/ハルトヒの江戸参府/肥前長崎地震の終息/災害列島というイメージ
第五章 商館長ファン・レーデが記した京都天明の大火
 父子の絆/毎日の火事/ファン・レーデの覚書/京都大火の猛威/避難する光格天皇/人びとの困窮/大火によって引き裂かれた家族/光格天皇の試練/ファン・レーデの二度目の江戸参府/京都での宿泊先/復興力に感嘆/光格天皇との交流/ファン・レーデのその後
第六章 島原大変肥後迷惑―商館長シャセーの記録
 長崎の地震活動/オランダ船が来ない!/普賢岳の噴火/島原藩主の苦悩/眉山の山体崩壊と大津波/オランダ船の到着/外科医ケラーの報告書/ヨーロッパに伝わった雲仙岳の噴火/噴火する富士山

2020年2月記

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