信長

信長「歴史的人間」とは何か 本郷和人 トランスビュー ISBN978-4-7987-0175-2 1,800円 2019年12月

 人間(英雄)が歴史を動かすのではなく、歴史こそが(歴史的)人間をつくるという視点から、宗教、土地、軍事、国家、社会という切り口で信長を見る。

 最後の終章で、筆者の歴史観がまとめられている。つまり、皇国史観は信仰であって科学ではない、また唯物史観は政治であって歴史ではないといっている(1980年代の東大日本史学で(本郷)、まだ民青(日本共産党の青年組織)が力を持っていたということにもびっくり)。そうした流れで、第5章では網野善彦「無縁・苦界・楽」への批判もある。

 しかし、筆者自身も認めているように、彼自身はK.マルクスに影響を受けていて、下部構造(生産構造)が、上部構造としての歴史(人間)を規定しているという立場である。
 また、筆者は明治時代は花形だった日本史が、いまでは人気がない科目になっていることに危機感を持っている。東京都の日本史必修化などを見ると、日本史は重要視されていたのかと思っていたので、これもびっくり。

 いずれにしても、全体として、一つの信長観としては説得力があると思った。

 

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目次
序 なぜ、いま「信長」を考えるのか
 信長は革新的な人物か、普通の大名か
 「歴史的人間」としての信長
 信長の生涯
第一章 信長と宗教
 比叡山焼き討ちのむごさ
 耐用年数を超えていた既成仏教
 神秘主義から合理主義へ
 信長の敵は誰か
 高野山の生産構造
 一向宗と一神教の共通点
 信長はなぜ一向宗を敵視したのか
 信長は宗教に寛容だったか
 神になろうとした信長
第二章 信長と土地
 「公地公民」というフィクション
 開発領主とは何か
 武士の誕生
 荘園はなぜ生まれたか
 鎌倉幕府はなぜできたか
 幕府が土地を与えるカラクリ
 土地から貨幣へ
 非常に狭かった室町幕府の統治範囲
 戦国大名の誕生
 信長・秀吉の一職支配
 自由と平等はいかにして生まれたか
第三章 信長と軍事
 長篠の戦いにおける「鉄砲」の意味
 何が戦国時代を終焉させたか
 兵種別編成の可能性
 兵種別編成の威力を「実験」してみる
 桶狭間の戦いでいたかもしれない「プロの戦闘集団」
 サラリーマン化する武士
 土地よりも茶碗を欲しがった滝川一益
 鉄砲と経済力の関係
 信長はどうやって鉄砲を調達したか
 城郭と天守閣という発明
 秀吉のロジスティクス
 勝つべくして勝っていた信長
第四章 信長と国家
 信長の花押の秘密
 日本はひとつの国か
 日本に古代はあるか
 日本の成り立ちを考える
 東北・関東は「国外」だった
 さらに縮まる平安時代の日本
 鎌倉・室町時代の関東と都
 東北でのデタラメな人事
 戦国時代に生まれた「おらが国」
 「天下布武」の意味
 関ヶ原の戦いの謎
第五章 信長と社会
 戦国時代はパラダイスだったか
 神君伊賀越え――なぜ家康はそんなに苦しんだのか
 廃仏毀釈の真相
 『政基公旅引付』に描かれた農民の交渉力
 農民たちのシビアな現実
 税のシステムで「公平」を実現した信長
終章 歴史的人間とは何か
 源頼朝と義経の関係
 歴史を動かすのは何か
 鎌倉から室町へ、時代の移行を読み解く
 なぜ歴史学は明治の花形だったのか
 V字型歴史観への疑問
 信仰としての皇国史観
 戦後の唯物史観
 歴史嫌いを増やした戦後の教育
 歴史学の現在
 再考する、歴史的人間とは何か
 歴史的人間としての信長

2020年1月記

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