日本史サイエンス 播田安弘 講談社ブルーバックス ISBN978-4-06-520957-8 1,000円 2020年9月(2020年10月第2刷)
筆者は造船設計・技術者、その立場から、蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和を考察する。
蒙古襲来については、蒙古船団の船の形・数を考察し、上陸地点、日本側の戦い方(一騎打ち方式ではなく集団騎馬戦だった)や上陸地点で異説を出し(博多近くではなく百道浜)、軍団が上陸に要する時間を算出する(短時間には全軍は上陸できない)。
※ ここで、当時の日本の軍馬はポニー並の大きさだったという通説(?)にも異論、木曽駒程度はあったという。確かに絵巻で描かれている馬はそれほど小さくはない。でもそうすると、鵯越えの畠山重忠は?
秀吉の中国大返しでは、兵士の運動量(消費カロリー)、兵站面、さらには睡眠・トイレの問題も数量的に評価する。そして、秀吉たち一部は海路も利用したのではないかという説を出す。
※ 秀吉は高松城を包囲している間に、信長の援軍を迎えるため(信長に最後は頼るというポーズ?)の陸路(道や館、さらには兵糧)を整備していて、それを利用した可能性もある。
最後の戦艦大和は、大和自身の解説は精緻だが、あとは大和愛の語り(造船をやってきたので仕方ないか)、あるいは歴史では禁じ手の“if”になってしまっている。つまり、こうすれば戦局は違っていたかもしれないという話になっている。これも、当時の日米の基礎体力の違いを考えると、基本的な歴史の構造は変わらなかったと思う。
ただ、歴史に関してはこうした数的な見方(蒙古襲来や秀吉の大返し)も必要だと思う。それも、きちんと史料(歴史家)との付け合わせは欠かせないという前提で。
2021年1月記