日没 桐野夏生 岩波書店 ISBN978-4-00-061440-5 1,800円 2020年9月
憂鬱な本。リアリティが、それも暗いリアリティがありすぎる。
主人公はマッツ夢井(松重カンナ)という、女性エンタメ作家。彼女のもとに総務省文化局・文化文芸倫理向上委員会(通称ブンリン)から、召喚状が届く。
じつは3ヶ月前にも審議会への出席要請が来ていたが、無視していたのだ(知人の作家成田鱗一のいうがまま)。家出した飼い猫コンブを心配しつつも、弟に連絡した後、出頭要請に応じることになる。東京駅の地下深いホーム(総武線?)から電車に乗って終着駅C駅(銚子駅?)に。そこから車で1時間以上かかる「七福神浜療養所」へ。
そこは読者からの告発をもとに、作家を収監し、更正させる施設だという。読者は、その作家の作品が反社会的なもの、マッツ夢井の場合は性的な描写(彼女が憧れているもっと露骨な描写が得意な木目田蟻江も収監されていた)がある、他にも反社会的な描写(暴力的な場面、反政府的言動など)があると告発すると、ブンリンがこの“療養所”に収監する。
更正というよりも矯正、人間の尊厳を奪い、自殺した方がましと思い込ませる、少なくとも人間性をなくさせる、絶望的な施設だとわかる。事実上一度収監されたら出所できない施設だとわかってくる(建前は更正し、二度と反倫理的なものを書かないと署名すれば出所できる)。ただ、成田鱗一は出所できたようだ。
そこでのまず飢えに苦しむ日常生活、反抗的態度と見なされると減点され収監期間がどんどん延びる、もちろん外界とは隔絶され連絡は取れない。収監者どうしはもちろん、所員との会話も許されない。ただ、あるのは所長多田、精神科医相馬との“会話”のみ。唯一散歩時に少しコンタクトがとれる謎の収監者A45。
所長多田、精神科医相馬(女性、脳に興味を持っている)、所員の蟹江(女性)、その姪秋波、西森、東森、越智、などの短評は、マッツ夢井の枕に隠されていた、これも行方不明になっていた菅生静の遺書にあった。のちに看護人三上(女性)も登場。
ということで、どんどん暗いクライマックスへ。
リアリティがあるというのは、隣の超大国における新疆ウイグル自治区での現実。そればかりかこの国における正義を振り回す庶民の自粛警察、思想を理由にした権力者側の一方的選別が起こっている・行われているという現実が既にあるからだ。
目次
第1章 召喚
第2章 生活
第3章 混乱
第4章 転向
2020年10月記