憲法と戦争を考える10講 「憲法と戦争を考える10講」編集委員会 麻布文庫17 2020年4月
東京の私立麻布高校1年生と2年生にに対し、学年とクラスの枠を取り払って選択できる授業(教養総合)の一つとして行われた「気分はもう戦争?!」と、「憲法と私」という二つのリレー講座の記録。
10人の講師と、その内容は添付した資料を参照。2015年度3学期(2016年1月〜3月)と2017年度第1学期に、この授業が行われたということは、現政権の平和安全法制(安保法、戦争法、2015年7月衆院を可決、9月参院を可決)を巡り議論が行われて間もないころ。反対側の動きとしては、若い人たちのSEALDsの動きが注目されたので、高1・高2の生徒たちの間でも、考えることは多かった時期だと思う。10人の講師は様々な立場から、この動きとその背景、あるいは現実を批判的に検討する。
レベルは大学教養部(1・2年)程度といいたいところだが、現在の大学は実質教養部が崩壊しているらしいので、また高3の第3学期は受験ために授業が少ない時期なので、高1・高2がこうしたことを受講する最後の機会なのかもしれない。残念ながら選択授業ではあるが。
やはり10人の講師ともなれば、その考え方は様々で、自分の考え方(考え方の方法・作法)に近い人は内容的には反対でもわかりやすいし、遠い人はわかりにくいということがよくわかった。具体的には第1講石川氏、第3講伊藤氏、第4講鈴木氏はわかりやすかったし、第6講義前嵩西氏、第9講義豊田氏はわかりにくかった。内容を評価しているのではない、念のため。
全体的に沖縄に比重があり、それはそれで重要な問題であろうが、当時最大の問題であった(だからSEALDsの活動もあった)平和安全法制を巡る議論と、その前提というか背景というか根本というか、憲法第9条に対する議論(じつは沖縄問題の根源)が足りないように思われる。何しろ、現政権の最大の目標は第9条の改訂だろうから。ただ、昨今の風潮として、憲法、とくに第9条を正面から取り上げる、それも高校(とりわけ公立高校)においてはなかなか難しい時代になっているので、こうした議論を授業として正面からできるということ自体、評価しなくてならないと思う。憲法改定はコロナ騒ぎで先が見えないが。
中学・高校が学校独自に本を出版している例は少ないかもしれない。ただ、久しぶりの新刊が出たのに、学園のホームページには案内が出ていない。少し残念。さらに、編集委員会の顔ぶれとみると、6名中すでに4名が退職している。これが最終になってしまうのだろうか。
現在の問題は、平和安全法制(安保法、戦争法)やSEALDsのときにも書きましたが、こうした講師たちインテリゲンチャー・文化人の声、さらには野党の声が一般人の支持を生まない、強引な国会運営、本来なら致命的なスキャンダル(お蕎麦やお花見)、自ら立法府の長と宣う行政府の長(じつは司法府の人事権も握っているらしい)と、その基盤政党を支持する人が減らないことだと思います。だから、これがなぜなのかを根本的に考える必要があると思います。さらに、一般人(大衆)が無知蒙昧かであるように、「戦争法」(←みんな知っている、でそれを支持している、だから根が深い)とあたかも法の本質を暴きさえすれば支持を得られるという思い上がった姿勢を含めて。
あと、この本では、憲法は権力者の横暴に対する歯止めという機能を強くいっている(“受け身”の昨今では仕方ない面もあるが)。たしかにそうなのだがが、もう一つ、憲法は理想をいってもらいたい。
過去の麻布文庫(1〜16、5の筆者は?)の案内は、学園のホームページの旧バージョンとして残っていて(表からのリンクはない)、現在でもアクセス可能。
https://www.azabu-jh.ed.jp/old/bunko/bunko.htm
麻布文庫は市販されていませんが、学園ホームページ最下段の「お問い合わせ」フォームで事務室に問い合わせると、購入可能だそうです。
https://www.azabu-jh.ed.jp/
https://www.azabu-jh.ed.jp/contact/
2020年4月記