寡黙なる饒舌

寡黙なる饒舌 若山滋 現代書館 ISBN978-4-7684-5883-9 1,700円 2020年7月 

 明治から始まる東京史を、建築という視点で見返す。この本で取り上げられてる建築のうち、実際に中まで入って見学した建物はそう多くないし、見ていない(見た記憶がない)ものも結構ある。今度いずれかの建物を訪れるときは、この本を読んで予習してから行こう。

 ここで取り上げられてる建物の中で、もっとも最近(といっても去年)行ったのはすみだ北斎美術館、確かに入るまでは斬新だったが、中は平凡だった。

 子供のころ全盛だったのは丹下健三、代々木体育館は切手にもなった。いまでも偉容を誇っているが、見た感じ、メンテが大変そうというとも思う。これから、日本経済が、また人口が下向きになっていく中、とくに大きな建物はメンテナンスが容易なように、さらに解体しやすいように初めから設計する時代になってきたのではないか。

 比較的近くに、安藤ストリートと呼ばれている町並みがある。あれ、都会で人通りの多い場所ならいいかもしれないが、閑散とした街では、さらに閑散とした感じに、つまり寂しく冷たい町並みになってしまう。街全体を統一したイメージで大手デベロッパーが再開発したのだろうが、正直な感想はあまりよくなかったというものだ。建物の中に入れば、また別な感想を持つかもしれない。

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目次
T・天皇の街
東京駅――天皇の可視化
第一生命ビル(GHQ)――大屋根の権力・列柱の権力
築地本願寺――日本とギリシャ・快男児たちの気宇壮大
岩崎邸――華麗なる西洋館・その光と陰
ニコライ堂――ビザンティン文化の窓
漱石という建築――赤煉瓦のメランコリー
――戦争は人を生む――
U・モダニズムとテロリズム
日本工業倶楽部会館――モダン・アーキテクチャーと團琢磨暗殺
自由学園・明日館――ライトの遺品・自由が輝いていたころ
鳩山一郎邸――政治史に残る友愛と野人の巣
東京ミッドタウン六本木――大名屋敷が「街中街」をつくる
朝香宮邸(東京都庭園美術館)――宮家のアール・デコはモダンの桂離宮
帝室博物館(東京国立博物館)――天皇の家には宝物がない
――「壁と都市」の文化・「屋根と家」の文化――
V・槌音ひびく
吉田茂邸――戦後日本の方向を決めた「大磯もうで」
聖アンセルモ目黒教会――ボヘミアンが共鳴した木造文化
国立西洋美術館――巨匠ル・コルビュジエの苦悩と呪縛
東京文化会館――モダニズムに筋をとおす
国立代々木競技場――国家の建築家・丹下健三
パレスサイドビルディング――かつて工業は美であった
――風土と建築と文化の地理学――
W・世界の「やど」へ
雷門と日本橋――哀しみの底流・脱自動車都市へ
目黒区役所(旧千代田生命ビル)――村野藤吾・時代遅れが時代を超える
安藤忠雄の「壁」――地球に刻印した男
トッズ表参道店――伊東豊雄・風の建築家
すみだ北斎美術館――北斎の天分・妹島の天分
東京工業大学博物館百年記念館――篠原一男・疾走する孤高
――「家」制度の住まい・「やど」逸脱の住まい――
エピローグ・もう一つの世界都市として

2020年7月記

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