科学史の核心 小山慶太 NHK出版新書 ISBN978-4-14-0886111-3 900円 2020年1月
表題の前に「高校世界史でわかる」がついている。近代科学史と世界史(ヨーロッパ史)を並列に書いて、科学的業績があった時代の社会・政治情勢がわかるようになっている。ただ、新書という性格上やむを得ないのだろうが、山本義隆の科学史のように、当時の社会の情勢・技術の進歩と科学的発見の関係を緻密に考察するわけでもなく(もちろん少しの解説はある)、広重徹の科学史のように、その科学的発見の意味を深く問うわけでもない。敢えていってしまえば「物語科学史」というところか。
現代の科学は大型化していて、一つの論文にウィーク簿ボソンの検出では135人が連名、さらにはヒッグス粒子発見では3000人以上になっているという。ブラックホール撮影の論文も200人超だという。この現実にノーベル賞が対応できていないことを指摘している。
フランスで建設中の国際核融合実験炉(ITER)では、EU、合衆国、ロシア、中国、インド、韓国に加えて日本も参加している。筆者は少し期待しているようだが、2035年の運転開始はとても無理だろう。筆者の期待は、つまり科学は両刃の剣という科学に対する認識から来ているのだと思う。
それにつけても、筆者も感心しているとおり、ニュートンの図はすごいなぁ。
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目次
まえがき──科学史への誘い
第1章 イギリス王政復古と「学会」創設
──ニュートンはなぜ大科学者たり得たか
東の“算聖”、西の“算聖”
ピューリタン革命下に生まれたニュートン
国王チャールズ二世と王立協会の創設
ペストとニュートンの創造性の爆発
『哲学会報』という世紀の発明
学術雑誌の役割
太陽王ルイ一四世とチャールズ二世
顕微鏡学者レーウェンフックと画家フェルメール
グリニッジ天文台の設立
ロンドンのコーヒーハウス
ニュートンの『プリンキピア』
ペティの『政治算術』
名誉革命とニュートン
ナイトに叙せられたニュートン
ハレー彗星
外交官、宮廷顧問官としてのライプニッツ
ニュートンとライプニッツの戦い
ニュートンの死
ニュートン力学とフランス
第2章 フランス革命と化学革命
──なぜ諸科学は動乱期に基礎づけられたか
ダランベールに宛てたラプラスの手紙
“力学神授説”を打ち砕いたラプラス
ナポレオン時代のフランス
ラグランジュの『解析力学』
微分方程式の美学
フランス革命の一〇年
ギロチンの登場
錬金術から近代科学へ
ラヴォアジエの『化学原論』
徴税請負人の“幸福な一日”
断頭台に送られた大化学者
メートル法の制定
エコール・ポリテクニクの創設
エコール・ポリテクニクの卒業生
カルノーと熱力学
科学研究の中心の移動
第3章 普仏戦争と「量子仮説」
──量子力学は製鉄業から生まれた?
コークスによる製鉄
蒸気機関と産業革命
アメリカ合衆国の誕生
ランフォード伯爵と熱の運動説
神聖ローマ帝国の崩壊とドイツ統一
ドーデ「最後の授業」
熱放射と高温測定
ベルリンの物理工学国立研究所の創設
一九世紀物理学を覆う暗雲
プランクが唱えた掟破りの仮説
アインシュタインが愛したスイス
アインシュタインの光量子仮説
ミクロの世界への探訪
“風が吹けば桶屋が儲かる”
量子力学をつくった若手の活躍
第4章 世界大戦と核物理学
──真理の探究はいかに歴史に巻き込まれたか
“ヨーロッパの火薬庫”と第一次世界大戦
毒ガスの開発
“天使”と“悪魔”
戦死したノーベル賞化学者
もっとも美しい実験結果──モーズリーの法則
チャーチルとムスタファ=ケマル
チャーチルのノーベル文学賞
第一次世界大戦と一般相対性理論
ブラックホールと膨張宇宙
ヒトラーと第二次世界大戦
ファシズムと科学者の亡命
奇妙で不気味な偶然の一致──一九三八年
原子核物理学の発展
核分裂の発見と女性科学者
ノーベル賞授賞式からの亡命
原子炉と原子爆弾
世界大戦の遺産
第5章 変貌する現代科学──巨大科学は国家を超える
ラッセル=アインシュタイン宣言
核融合炉開発への取り組み
国際宇宙ステーションの運営
素粒子実験装置の巨大化
ブラックホールの撮影と国際ネットワーク
ニュートンが遺した図と現代科学
あとがき
世界史・科学史比較年表
2020年1月記