竹内薫の科学の名著案内

竹内薫の科学の名著案内 竹内薫 徳間書店 ISBN978-4-1-865015-5 1,500円 2020年2月

 竹内薫は日本では数少ない科学作家。一時NHK Eテレのサイエンスゼロの司会もしていたので、知名度は高いと思う。物理が一番得意なようだが、この本では幅広い分野の本を取り上げている。表紙にある90冊のうち74冊は日経の今週の3冊で挙げたもの。

 3章では「読まなくていい科学の古典」として、ニュートンの「プリンキピア」、コペルニクスの「天体の回転について」、ダーウィンの「種の起源」(替わりに「ビーグル号航海記」を推薦している)を挙げている。これらはわかりにくいし、いい解説本で出ているからとしている。「プリンキピア」の替わりに「プリンキピアを読む」(和田純夫、講談社ブルーバックス)、「天体の回転について」の替わりに「誰も読まなかっコペルニクス」(オーウェン・ギンガリッチ、早川書房)を推薦している。

※ 「天体の回転について」は山本義隆の詳細・緻密な検討がある。「世界の見方の転換」(全3巻、みすず書房)。

 彼は高校理科で物理と地学の選択者数がすくなということには、かなりの危機感を持っているようだ。

 それにしても、ここで挙げられている90冊のうち、読んだことのある本は少ないなぁ。一応細々と読書の記録は付けているけど、そのうち現在何冊を推薦できるだろう。

 この本では本の推薦ばかりではなく、彼の科学・技術論も書かれている。地球温暖化論に若干懐疑的(でも現在生物の大絶滅が起きているとは考えている)なところは自分の考えに似ているかもしれない。ICPPの報告については、第3次報告の謙虚な態度が一番よかったと思う。すなわち「いずれにせよ後悔しない対策」(化石燃料の消費をできるだけ減らす)に代表される姿勢。

 竹内薫と自分の意見は、エネルギー問題ではまったく違う。彼は再生可能エネルギー+核融合炉でエネルギー供給ができるようになるまで、核分裂炉(現在の原子炉)を“つなぎ”で使うという考えである。核融合炉に期待できないことは「世界の起源」のところで書いたが、研究中のT-D反応炉はクリーンなエネルギー源でもないし(反応で中性子を出すし、トリチウム(T)を作るのに分裂炉が必要)、難しすぎる技術なので。また分裂炉(原子炉)にネガティブなのは、事故を起こさないとしても自動的にたまっていく放射性廃棄物の問題、老朽化していく原子炉の廃炉の問題など、後世にきわめて重たいツケを回す技術だからだ。

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まえがき
1.地球環境を考えるヒントに
 「ソロモンの指輪」(コンラート・ローレンツ)。「沈黙の春」(レイチェル・カーソン)、「ガイアの復讐」(ジェームズ・ラブロック)、「第6の絶滅は起こるのか」(ピーター・ブラネン)
2.奇妙で風変わりな科学者の世界
 「ご冗談でしょう、ファインマンさん」(リチャード・P・ファンインマン)、「二つの文化と科学革命」(C・P・スノー)、「世界を変えた50人の女性科学者たち」(レイチェル・イグノトフスキー)
3.これは読まなくていい!誰もが知っている科学の古典
 「プリンキピア」(アイザック・ニュートン)、「天体の回転について」(ニコラウス・コペルニクス)、「種の起源」(チャールズ・ダーウィン)
4.宇宙や未来を拓く物理の世界
 「ニュートリノ天体物理学入門」(小柴昌俊)、「四次元の冒険」(ルディ・ラッカー)、「踊る物理学者たち」(ゲリー・ズーカフ)
5.学校では教えてくれない本当の数学の世界
 「統計でウソをつく法」(ダレフ・ハフ)、「数学は世界を変える」(リリアン・R・ルーパー)、「素数に憑かれた人たち」(ジョン・ダビーシャー)
6.もっともっと科学書を楽しもう(日本経済新聞「今週の3冊」より)
あとがき

2020年4月記

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