科学が暴く「食べてはいけない」の嘘

科学が暴く「食べてはいけない」の嘘 アーロン・キャロル 寺町朋子訳 白揚社 ISBN978-4-8269-0217-5 2,400円 2020年3月

 筆者は現役の小児科医で、食品の安全性の研究家でもある。

 食品の安全性・危険性を、科学的にきちんと明らかにするのは大変だと思う。対象がヒトなので、マウスやラットにあり得ない大量の物質を投与した結果を、そのままスライドすることはもちろんできない。この本ではまず、信頼度の一番低い症例報告から、症例シリーズ−横断研究−症例対照研究−コホート(対象集団)研究(後ろ向き研究、前向き研究)と信頼度は上がるが、これらはいずれも観察研究であるといい、相関関係と因果関係を取り違えしていることが多いともいう。だから実験研究が必要でランダム化比較研究がもっともいいのだが、実際にはそれを行うのは大変で、この本ではおもに、質の高い研究を集めて分析するシステマティックレビューと、複数の研究を集めてうまくデータを統合するメタ分析という方法で代用すると断っている。

 そして題材に選んだ食品は、バター、肉、卵、塩、グルテン、酒、コーヒー、ダイエットソーダ(人工甘味料)、うま味調味料(グルタミン酸)、非有機食品である。いずれも、過度に摂取しなければ問題となるようなものではないという、常識的な結論を出している。つまり、上に挙げた食品を危険とする研究には瑕疵が多いという。それは一時どんな少量でも危険という結果が出てたというアルコールもそうだという。また、うま味調味料には人種的偏見もあるのではないか(“中華料理店症候群”という名)とも指摘している。

 最後に、「1.できるだけ多くの栄養を、さまざまな未加工品から摂取する」(加工食品は危険ということではなく、カロリーの高いものを簡単に食べてしまいがち)に始まる、キャロル・ルールも紹介している。まあ、バランスのいい食事、適度な運動、ストレスのない生活という当たり前のことが大事という当たり前の結論。逆にいうと。「これを食べれば・飲めば健康になる」という”健康食品”は怪しいということになる。

マスコミがこうしたことを報道するときの常套的方法は、「○○は有害か?」という見出しになり、本文で○○は有害ではない(少なくとも有害だとは立証されていない)としても、読み手の方は「○○は有害」と受け取ってしまうということも指摘している。

「健康食品」はよく症例報告でごまかしている。「○○を愛飲している××さんは「これを飲んでから本当に毎日が快適で」とおっしゃっています。」という画面の隅を見ると、「個人的な感想です」とただし書きが付いている。もうこれで、公表できるようなたしかなデータはないんだなとわかる。

筆者はアメリカにおける健康上の最大の問題は、この本では正面からは取り上げていないが、太り過ぎ(カロリー摂取量が多すぎ)と考えているようだ。だからダイエットソーダ(人工甘味料)を容認、さらに自分の子供たちにも週数回程度飲ませているという。このことを書いたら、たちまち非難囂々、メール・電話で、さらには小児科医の免許を剥奪しろという声までがあったという。 欧米の人たちも歳をとると、ツアー旅行に参加するようで、そうした人たちの中には明らかに肥満という人が少なからずいる。たしかにあの食事の量、さらにデザートは別腹なのかこれもとてつもない量が出てくる。あれでは基礎代謝量が落ちる中年以降ドンドン太り出すのは必然だと思える。 もっともアメリカに限ると、もう一つの健康上の問題は、というよりも命の問題は、銃が野放しになっていることだと思う

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目次
序文
はじめに
医学の知られたくない事情
どのように科学研究を評価したらいいか
栄養学の限界
本書の使い方
第1章 バター――未熟な栄養学によって、悪者になった脂肪
トランス脂肪酸についての真実
「飽和脂肪酸は悪」は根拠不十分
「牛乳は骨にいい」に根拠なし
まとめ――脂肪はみんなが思うほど体に悪くない
第2章 肉――研究のいいとこどりが生んだ肉食反対
都合のいい解釈
魚は健康にいい――これは本当
豚肉、鶏肉もだいたい体にいい
「牛肉は他の肉より不健康」に根拠はあるか?
がんのリスク――人びとを恐怖に凍りつかせる計算マジック
まとめ――ステーキを食べても罪悪感は無用
第3章 卵――「タマゴは一日一個まで」に見る栄養学のお粗末な実態
コレステロールは体に必要な栄養素
「卵を食べるとコレステロールの値が上がる」はウソ
サルモネラ菌を怖がるのは非合理的
まとめ――卵はガマンしなくていい
第4章 塩――研究を拡大解釈する過ち
食塩の推奨摂取量に根拠なし
減塩のやりすぎに注意
ナトリウムパラドックス
まとめ――摂りすぎもよくないが、摂らなすぎもよくない
第5章 グルテン――研究者本人が火消しに手を焼く健康ブーム
小麦アレルギーとセリアック病
曖昧なランダム化比較試験の結論からパニックへ
安易なグルテンフリー食の実践はキケン
まとめ――グルテンフリー食が必要な人はほとんどいない
第6章 酒――健康によいという証拠が積みあがっている
近年、アルコールの利点を示す研究が増えてきた
飲酒を悪いとする研究には穴が見つかる
アルコール乱用はダメ、ゼッタイ
妊婦はアルコールを控えるべきか?
まとめ――量が重要
第7章 コーヒー――メーカーのマーケティングで着せられた汚名
コーヒーは子どもが飲んでも大丈夫
脱水症にならない
心臓病、がん、肝臓病、糖尿病などの予防効果に根拠あり
妊婦はコーヒーを飲んでもいいか?
まとめ――悪影響ありの主張は根拠薄弱
第8章 ダイエットソーダ――メディアが生んだ人工甘味料への恐怖
炭水化物と糖尿病
罪深い砂糖擁護キャンペーン
添加糖は現代社会最大の敵
人工甘味料不信を招いたラットの実験
アスパルテームたたきの発端は論文のタイトル
止まらない人工甘味料への誹謗中傷
人工甘味料を支持する根拠
まとめ――別に毒ではないが量には注意
第9章 うま味調味料――単なる体験談から炎上
「化学」というだけで反対運動に
グルタミン酸は生き物に必須
中華料理店症候群――風評被害
MSGを悪とする研究に一貫性なし
まとめ――グルタミン酸はおいしいし不可欠
第10章 非有機食品――「有機のほうが健康にいい」に根拠なし
食品が「有機」であるとはどういう意味か?
健康科学から見ると、有機も非有機も差はない
微妙な研究ストーリーを読み解く
「有機vs非有機」という構図はリセットしよう
まとめ――有機でなくても、健康的な食事はできる
さいごに――健康的に食べるためのシンプル・ルール
アーロンズ・ルール――健康にいい食事をするために
まとめ――なぜ、私はやせて、健康になれたか
謝辞
参考文献
索引

2020年4月記

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