独ソ戦

独ソ戦 大木毅 岩波新書 ISBN978-4-00-431785-2 860円 1019年7月(2019年12月第9刷)

 2020新書大賞第1位をとり、すでに12万部以上売れているという話題の本。

 かつてはドイツでは、ヒトラー個人の責任という側面が強調されていたが、国防軍の責任、さらには他国の犠牲を上に成り立っていた生活を享受していたドイツ一般市民の意向・支持(満州を背景とした日本と同じ)もあったことを明らかにする。

 一方、これまた神話のベールに隠されていたスターリンの脳天気ぶり(甘い情勢分析と誤解(ゾルゲによるドイツ軍侵攻の情報を無視)、これはヒトラーも同じ)も明らかにする。これらはもちろん当時の資料がソ連崩壊後に公開されたために、明らかになってきたことだ。いずれにしても、ヒトラーとスターリン互いの思惑と、それに基づく妄想が、ソ連側だけでも人口1億9千万人のうち、民間人を含め2.7千万万人を超える死者・行方不明者を出したことに繋がっていく。これは戦前7100万人の人口だった日本の犠牲者210万〜230万と比較しても大変な数だとわかる。(ドイツは人口7千万人弱のうち、700万〜900万人)。

 いずれにしても、人口でも、また国土の奥深さでも、さらに ”冬将軍”という面を考えても、ドイツが負けるということは必然だったのだろうが、緒戦の華々しい成果によって指導部が冷静な判断をする機会を失っていく過程も、日本と似ている。戦線の広大さでいうと、スターリングラード攻防戦を狭くみても東京を中心として草加から横浜まで、スターリングラード攻防戦全体では金沢沖の海〜富山〜長野〜熊谷〜大菩薩峠〜静岡〜浜松〜伊勢〜奈良北部となるという。こうした地理的広大さだけでも、大変なものだとわかる。

 この本では、この「世界観戦争(絶滅戦)」を、おもに戦史・軍事史面での分析を中心に(この本で戦略と戦術のあいだに、作戦術というものもあるということを知った)、政治・経済・外交・イデオロギーの面からも見ていきたいということだが、新書という制約もあり、後者についてはあまり展開されていない。そうではあっても、これまでは互いのプロパガンダでしか書かれていなかった独ソ戦全体を知るのにはいい本だと思う。

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2020年4月記

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