ドキュメント武漢

ドキュメント武漢 早川真 平凡社新書 ISBN978-4-582-85946-1 820円 2020年8月

 帯にあるように、封鎖中の武漢にいて閉じ込められた、そのドキュメントではなく、封鎖直前に武漢に日帰り取材できた、また封鎖解除後にも武漢に取材に行けたということで、封鎖中の武漢のドキュメントではない。全体としてはこの1月から7月初めころまでの中国のドキュメントである。

 中国政府(中国共産党)の無謬主義を持ってしても、初動の遅れはある程度認めざるを得ない(それでも最小限、最初に気がついた李文亮医師の後付け評価、習近平の初動などは改竄)、まあ想定外だっただろうCOVID-19。ただ、まさに強権主義政府だからできた日本でいうと23区規模の都市の封鎖。実際それが功を奏したかどうかの検証も必要だが、8月14日時点での感染者数は世界の中で32番目(日本は46番目)、ただ中国は人口が多いので人口10万人あたりでは世界の96番目(日本は89番目)、人口100万人あたりの死者は世界の94番目(日本は84番目)となっている。また、感染者の増加も今のところかなり抑えられている。

 この本では、感染拡大とそれへの対応、指導部の動向、中国経済、米中関係などもまとめられている。読んだ感想は、本の趣旨とずれるが、中国社会はものすごくIT化が進んでいる、何事もスマートホンのアプリ(お金関係ばかりか身分証明、そして自分の行動履歴までを記録)がなければ自由に動くことができない、でもそれは権力にとっては都合がいい、誰もの行動を把握できるという社会、まさに1984年の世界がほとんど実現している社会になっているということがよくわかった。

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《目次》
プロローグ
「マスクなんか要らないよ」/華南海鮮卸売市場/「終わった後に騒ぎ始めた」
第一章 遅れた初動対応
「原因不明の肺炎」/香港、台湾で警戒強まる/新型コロナウイルスと確認
四万世帯の大宴会/湖北省の重要会議/情報統制を強化?
中国政府、対策を始動/「人から人」への感染確認/春節直前
決断前夜/封鎖発表直前の“誤報”
第二章 医療崩壊の実態
武漢の経済を支える自動車産業/辛亥革命発祥の地/深夜の病院にも行列
統計外の死者/医療従事者への暴力も/人民解放軍が武漢入り
十日間で病院建設/閉じこもった住民/邦人救出作戦
中国人企業家が邦人の帰国を支援
第三章 中国全土に感染拡大
対応の遅れ認めた武漢市長/既に多くが省をまたいで移動/統計をめぐる混乱
刑務所でも集団感染/ゴーストタウンとなった北京/バリケードで集落を封鎖
デリバリーに助けられる/出稼ぎ労働者/春節を延長/記者会見もオンラインに
「髪を切りたいんだって?」
第四章 立て直し図る習近平指導部
人民大会堂の新年会/感染対策のトップは李克強氏/国営テレビでアピール
湖北省の幹部更迭/「一月七日」の指示/厳しい外出禁止令
高官視察のための「やらせ」/「さようなら李文亮!」/全人代、異例の延期
習近平氏が武漢入り/党・政府の収束アピールに非難殺到
第五章 中国経済、未曽有の危機
未完の摩天楼/過剰投資の現場/「ハードランディング」へ突入
自動車生産がストップ/賃金の未払いも多出/原油安が中国に飛び火
合言葉は「復工復産」/発電量の落ち込み/製造業ストップの影響が世界に波及
外交政策にも影響
第六章 激化する米中対立
海外旅行ラッシュ/WHOからの“お墨付き”をアピール/渡航禁止に猛反発
米中対立の舞台となったWHO/ウイルスの発生源はどこなのか
武漢ウイルス研究所/「世界は中国に感謝すべきだ」
「われわれは世界のために働いている」/習近平氏の訪日延期
「米国では政治ウイルス≠ェ広がっている」
第七章 「コロナ後」へ向かう中国
武漢の封鎖解除/「あなたを今から隔離します」/事実上の鎖国状態
全人代、二カ月半遅れで開催/アクセルとブレーキの調整
続いていた「中国製造2025」/ウイルス第二波の恐怖/北京の市場で集団感染
PCR検査を受けてみた
エピローグ──再び武漢へ
何度も求められる陰性証明/封鎖下の暮らし/動き始めたターミナル駅
あとがき

2020年8月記

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