デジタル化する新興国

デジタル化する新興国 伊藤亜星 中公新書 ISBN978-4-12-102612-5 820円 2020年10月

 以前TVで日本に来た観光客(たしか南米から)にインタビューしていて、日本のIT化は凄い、さすが科学技術立国という答えを期待していたようだったが、観光客の答えは、日本は不便、WiFiが使えないし、お店でクレジットカードも使えないというものだった。こうしたサービスが当たり前の国から、日本にやってきたら確かに不便を感じるだろうと思った。

 2005年に中国四川省の奥地、チベット族やウイグル族の住んでいる地域を回ったことがある。家々の屋根には巨大なパラボラアンテナが立っていた。確かにこういう地域(深い谷に散在する村)ででは、TV塔を建てるよりも、静止衛星からの電波を直接受けた方が簡単だと思った。TVは共産党のプロパガンダが多いのだから、大勢の人にそれを見せるという政府の意図もあって、アンテナ&TV設置には補助があるのだと思う。

 その後も何回か、新興国を旅したことがあるが、大勢の人々がスマホを持っていて、それが当たり前のようだった。これらの地域は固定電話の普及を飛ばして、携帯電話の時代になっていると思った。

 いま、厳しい米中対立の中、中国のIT企業(デジタル企業)は一つの転換点を迎えていると思う。ケ小平の改革開放路線以後(一国社会主義の放棄以後)、中国経済は資本主義になっている。資本の本質の一つとして、グローバルということがあると思う。実際中国は、最初は低かった人件費を武器に世界の工場となり、さらに最近は巨大なIT企業も育っている。だが、米中対立により、本来は資本の本質とは矛盾する一国資本主義にならざるを得ない状態になっている。ただ、多くの人口を抱え、さらに一帯一路も生きていて、それなりに、またしたたかに、アメリカに対抗していきそうだ。つまり、米中対立による貿易の遮断が、中国企業にとっての保護壁(万里の長城)になっている可能性もある。

 その中国が得意な「監視システム」も、今後の中国の外貨獲得に、つまり新興国に活用されて売れていくだろう。監視システムによって、為政者(独裁的な政権が多い)にとっては統治しやすい状態を作れるし、一般市民にとっては息は詰まるが治安はよくなるという”メリット”もあるので。

 新興国にとってデジタルの進展は、本の帯にあるように可能性もリスクも高いと思う。さらに難しいのは、日本の立ち位置だと思う。デジタル化については、日本は世界からかなり遅れ始めていると思う。ただ、それをどう評価するか。そんなに背伸びしなくても、世界の片隅でひっそりと生きるという選択肢もあると思うので。

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2020年10月記

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