アパレル興亡 黒木亮 岩波書店 ISBN978-4-00-061390-3 1,900円 2020年2月
経済小説という分野の本らしい。経済界、それもアパレル業界というまったく知らない分野の本なので、どこまでが事実でどこからが創作なのかわからない。最後の「一部実在の人物が〜略〜また、登場人物の人間像は、すべて筆者の創作です。」という筆者の断り書きが、逆にきっとそれぞれの人物はそういう性格(中心的登場人物の田谷毅一(高野義男)の”ごまかす”性格など)、きっとそうなんだろうと思わせる記述。
東京スタイルや伊勢丹、村上ファンドなどは実名で出てくる。その他、実名で出てくる企業、人物も多い。でも、札幌の老舗百貨店は海猫百貨店だし、強い取引がある総合商社は東西実業と名を変えている。わかる人が読めばその名もわかるのだろうと思う。
百貨店がアパレル業界を絶大な力で支配していた、それも伊勢丹が百貨店業界をも支配していた時代(これは京王デパートの責任者からも、バーゲンの時期も勝手には決められないと愚痴をきいたことがある)、独自の安定した高品質製品を武器に百貨店との強い結びつきで伸びてきた、アパレル企業東京スタイルの始まりから終わりまでの物語。
全体としてはアパレル業界80年間の興亡史。上に書いたように疎い分野なので、よくわからけどそれなりに面白い。きっと他の業界もこのような物語があるのだろう。たとえば一時世界を席巻した家電業界とか、陰りが見え始めた自動車業界とか。
ところで一カ所ミスを発見。田谷毅一で押してきた東京スタイル2代目社長の名が、411ページでぽろっと「東京スタイルに入社して、高野義男社長の下で修行し」と実名を出してしまっている。
目次
プロローグ
第一章 笛吹川
第二章 つぶし屋と三越
第三章 百貨店黄金時代
第四章 株式上場
第五章 社長交代
第六章 ジャパン・アズ・ナンバーワン
第七章 カテゴリーキラー台頭
第八章 ヒルズ族の来襲
第九章 中国市場開拓
第十章 兵つわものどもが夢の跡
エピローグ
主要参考文献
アパレル用語集
2020年4月記