悪党・ヤクザ・ナショナリスト 近代日本の暴力政治 エイコ・マルコ・シナワ 藤田美菜子訳 朝日新聞出版 ISBN978-4-02-263097-1 1,700円 2020年6月
明治以降の日本の政治史を、“暴力(グループ)”という切り口で見てみた本。帯の最初にある博徒は明治初期自由民権運動盛んなころの自由党に加わった博徒を指す。代表は秩父困民党。幹部に博徒がいたのは確かだが、国定忠治や若ころの清水の次郎長などの職業的博徒とは違い、養蚕業の他に定常的に博打を打っていた者たち。さらに困民党幹部の半分は当時のインテリゲンチャーなので、ちょっと見方が違うと思う。
でも確かに、1960年代、あるいは70年代までは、政治の影に右翼・暴力団がいたことは確か。あの戦前の右翼、志士を気取って、でもじつは軍と絡んで私腹を肥やし、終戦のどさくさもうまく立ち回って(アメリカにこびへつらう憂国の志士)、保守政界に隠然たる影響を保持し続け、最後はロッキードでその姿が浮き彫りにされた者もいる。一方、暴力団は一部大企業経営者や保守政治家の私的暴力装置として使われて、スト破りやデモ隊襲撃などで表に登場してきた。
この本で明治初期の政治集団として吏党・民党という分類、あるいは志士にルーツを持つ院外団などはあまり知らなかった。
原書は2003年ハーバード大学博士論文をもとにした、2008年の本ということもあり、1970年代初めまでしか出てきていない。また、国家の暴力装置、戦前の軍(とくに憲兵)・警察(とくに特高)などが民衆に与えた脅威、さらには戦後の警察予備隊から自衛隊の存在などにはまったく触れられてないのは片手落ちだと思う
目次
イントロダクション
第1章 愛国者賭博 暴力と明治国家の成立
第2章 暴力的民主主義 悪党と議会政治誕生
第3章 暴力の組織化と政治暴力という文化
第4章 ファシストの暴力 戦前の日本におけるイデオロギーと暴力
第5章 民主主義の再建 戦後の暴力専門家
最後に 暴力と民主主義
謝辞
解説 藤野裕子
原注
参考文献
2020年10月記