5G 森川博之 岩波新書 ISBN978-4-00-431831-6 860円 2020年4月
大きなかけ声だけはしきりに聞こえてくる”5G”、たんに超高速(キャッチフレーズは2時間の映画が3秒でダウンロードできる)ということだけではないという。もちろん“超高速”だが、それに加えて“低遅延”と”多数同時接続”がポイントだそうだ。低遅延はつまりサーバーとのやりとりがスムーズになること(自動運転や重機の遠隔操作など)、多数同時接続はイベント会場などでもストレスなく繋がること、こうしたことが実現するという。
そして、これまでのB2C(Business to Consumer)から、B2B、さらにはB2B2X(通信事業者−サービス提供事業者−個人・企業)と形態も変わってくるという。
使用電波帯はミリ波がメインになる。伝えられる情報量は多くなるが、電波の直進性・減衰性が強くなるので、基地局をたくさん作らなくては実用に供せない。また基地局までの通信は光ケーブとが、日本の場合はすでに国内に光ケーブルが行き渡っているので、そういう面では有利だそうだ。韓国やアメリカにサービス提供が先を越されているというのはあまり正しくなく、まだそれらはミリ波の本格的な使用はなく、ミッドバンドを使っているので、本来の5Gのパフォーマンスは引き出せていないという。
わかったようなわからない5Gだが、第1世代(1G)が電話、2Gがメール、3Gが静止画(iモード(世界に対して先行しすぎた)と国際規格(ここでガラパゴス化))、4Gが動画(スマホ)と10年ごとに進化していて、もう6G(2030年代)の構想が始まっているという。
第3章の「モバイル興亡史」は面白い(ミーハーなので)。一時代を築いた巨大企業もあっという間に衰退していくこと、中には奇跡の復活を遂げたものがあることなどのドラマになっている。
話題の中国企業ファーウェイの解説もある。アメリカなど欧米諸国との対立はもちろんだが、中国政府とも微妙な立ち位置だそうだ。でも、いざとなったら、中国政府の指示には従わざるを得ない(と読める)法律もある。知らなかったのは、ファーウェイの子会社(今は分離)が、海底ケーブルの敷設もやっていて(一帯一路)、5Gの技術だけではなく、こうした地球規模のインフラの整備が今後重要になってくると思う。
※ 5Gの時代でも、インターネットが海底ケーブル経由という制限があるので(タイムラグを生ずる)、たとえばニューヨークの名医がネット経由で日本の患者の手術をするのは無理だそうだ。
1G(携帯電話)がなくてもすむではないか、スマホでなくガラケーでもいいではないかと思いつつ、でもなんとなくこれまでは、時代の流れに棹を差してきた。5Gも安くなれば利用するようになるだろうというか、そうならざるを得ない展開になると思う。ただ、6Gはもう無理、生きている保証もないし。
子供のころはまだ各家庭に電話はなかった。テレビもなかった(ラジオはあった)。映画もモノクロが多かった。家庭で高画質の映画をネット経由で見られる時代が来るとは想像できなかった。思えば、すごい時代を生きてきたと思う。
目次
序 章 5G×デジタル変革
5Gはスマートフォンだけではない/「低遅延」「多数同時接続」の2つが新しい軸/5GはF1、4Gはゴーカート/デジタル変革のドライバー
第1章 5Gの本質
5GとIoTやAIの関係/なぜ5Gが注目を集めているのか?/5Gは周波数帯に着目せよ/5Gは無線部分と有線部分とから構成される/5Gでは光回線が重要/「超高速」「低遅延」「多数同時接続」/上り通信の高速化/B2CからB2Bへ/ローカル5G――通信事業者以外が対象の自営5G/5G基地局は徐々に広がっていく/人口カバー率からエリアカバー率へ/地方でも均等に設置が始まる5G基地局/B2CからB2B2Xへ/少しずつ進化する5G/5Gテクノロジー自体は非連続なものではない/新しいビジネスの余地が生まれる/5Gは産業を激変させるのか
第2章 5Gの潜在力と未来の姿
バルセロナのMWC2019/自動運転――自律型と遠隔型/クルマのコモディティ化とゲームチェンジ/いろいろな形態の自動運転/安全運転支援のための5G/作業現場の無人化/無線化スマート工場/Industry
4.0 を支える5G/ローカル5G工場の誕生/データ駆動型医療・ヘルスケアを後押しする/5Gが切り開く新たな医療・ヘルスケアの姿/モバイルヘルス――「プロアクティブ型医療」に向けて/ゲームがテクノロジーを進化させる/ゲームの変遷とクラウドゲーム/クラウドゲームならではの特徴/IT業界の巨人参入により変わるゲーム業界の構図/将来を深く洞察していたネットフリックス/動画配信を軸にした地殻変動/動画とゲームの垣根がなくなる/テレビとスマートフォンの垣根もなくなる/ARやVRは5Gで離陸するか/現実と仮想の境目が消える/4K遠隔作業支援などの産業応用も/都市の安全を見守る/地方も変わる/5Gが地方の生産性向上の起爆剤に/地方ならではの強み/データに基づくまちづくり
第3章 モバイル興亡史をふり返る──通信規格の世代交代
10年ごとに進化してきたケータイ/5Gでも事業や生活が一変するのか/アナログだった第1世代/携帯電話が普及し始めた第2世代/なぜ、携帯が一気に普及したのか/PHSの登場/世界に衝撃を与えたiモード/高機能化が進んだ3G/iPhoneの登場/3・5Gと3・9G、そして4G/人々のコミュニケーションスタイルを変えた/スマートフォンはどこに向かうのか
第4章 激化するデジタル覇権争いのゆくえ
市場に群がる多彩なプレイヤー/5Gの「世界初」競争/三者三様の5G/日本の立ち位置/寡占と競争――第4の事業者/基地局整備/基地局に加えて災害対応も/隠れた王者クアルコム/クアルコムの特許ライセンス/裾野分野での日本企業の存在感/米中5G戦争/デジタル覇権のせめぎ合い/デジタル・シルクロード/セキュリティとファーウェイ/国家情報法/制裁措置の影響/ファーウェイの発展史/研究開発と顧客中心主義/業界再編の嵐/垂直統合的な産業構造/日本企業の命運
第5章 5Gを支えるテクノロジー
電波――共有の財産/電波の性質/5G割り当て周波数/「多段ケーキ」でカバー/ハイバンド/ミッドバンド/ローバンド/信号機を5G基地局に/多彩なテクノロジーの取り合わせ/Massive
MIMO/低遅延――1ミリ秒は無線区間のみ/エッジコンピューティング/クラウドへの対抗軸/IoTを支える多数同時接続/コアネットワークの仮想化/無線アクセスネットワークの仮想化/ネットワークスライシング/ローカル5Gの周波数/自営BWA/ローカル5GとWi-Fi6
終 章 5Gにどのように向き合えば良いか
まずは土俵に上がる/5G活用の考え方/隠れたニーズに気づく/フットワーク軽く動く/通信事業者やローカル5G構築・運用事業者との戦略的連携/6Gへ――モバイル進化の底流を読む/産業構造の激変の中で創り上げる
2020年4月記