深海極限の世界

深海−極限の世界 藤倉克典・木村純一編著 講談社ブルーバックス ISBN978-4-06-510642-8 1,100円 2019年5月

 第1章は、生命の場として海底熱水噴出口が一番可能性が高いということを述べている。現段階では確かにそうだと思う。このなかで、「コマチアイト」という岩石(火山岩)が何回か出てくるが、説明が要領を得ない。ようするに、現在のマグマはマントルを構成するかんらん岩(かんらん石+輝石)のなかの融けやすい成分だけが融けてできた(部分溶融した)マグマ(玄武岩質マグマ・本源マグマ)。つまり、それがそのまま冷えかたまったとしても、もととなったかんらん岩とは組成が違う玄武岩になる。ところが、地球(固体地球)がまだ全体的に熱かった数十億年前は、マントル(かんらん岩)が全部融けてできたマグマがあり、それが噴出して冷えかたまった火山岩がコマチアイト。だから、コマチアイトはかんらん岩と組成が同じ。

 第2章はおもにプレートテクトニクスの解説なので、無理してこの本に入れる必要はなかったと思う。あと、深部掘削船「ちきゅう」について、その売りである“ライザー掘削”についての説明がないので、知らない人はわからないと思う。それに、「ちきゅう」は、進水前後(2002年進水、2007年ころから本格運用)の勇ましかったかけ声(10年以内にマントルへの直接掘削を目指す)とは裏腹に、それほどの成果は上げられていないと思う。これについては、運用の経費が潤沢ではないことが大きいのではないかと想像しているが、はっきりとはわからない(運用会社の倒産とかもあった)。あと、この2月のことなので原稿が間に合わなかったのかもしれないが、南海トラフ深部掘削断念(過去にも掘削パイプが折れてしまうなどの事故も)なども、きちんと報告すべきだと思う。

 第3章、とくにエネルギー資源(メタンハイドレート)や金属資源(レアメタルを含む)の開発については期待をしているが、技術的な問題と同時に政治的(国際)な問題もあるのではないかと思う。しかし、それについては言及がない。また、深海底の資源開発をすると、同じ章で言及されている深海の生態系への影響も大きいと思うが、それについても言及がない。

 ということで、無理に読む必要はない本だと思う。
 
目次
序章 深海の入り口
第1章 深海と生命
第2章 深海と地震
第3章 人類と深海

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2019年6月記

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