南の島のよくカニ食う旧石器人 藤田裕樹 岩波科学ライブラリー287 ISBN978-4-00-092687-8 1,300円 2019年8月
日本の旧石器人の人骨は、静岡県浜北根堅遺跡(2万2千年前)を除くと、他はみな沖縄にある。最古のものは山下町第一洞窟遺跡の36500年前(このころホモ・サピエンスがここまで到達した)、ほぼ完全骨格は港川遺跡の2万年間となる。なぜ沖縄からだけ旧石器人の人骨が見つかるのかについての一般的な説明は、沖縄は石灰岩が多く酸性を中和する、本土は酸性土壌が多く人骨が残りにくいということだそうだが、筆者は本土にだって石灰岩地帯はたくさんあると疑問を投げかけている。
この本ではおもに、港川遺跡や観光地玉泉洞の雄樋川流域、玉泉洞の少し上流にあるサキタリ洞から出てくる旧石器人(3万年以上前の幼児の歯が発見されている)の生活を想像する。サキタリ洞の入り口は現在カフェになっていて、そこから見えるところで発掘が続いているという。コーヒーを飲みながら発掘を見学できて、またコーヒーの香りをかぎながら発掘作業しているという場所らしい。
このサキタリ洞から世界最古(2万3000年前)の釣り針(貝製)が見つかったのだ。どうも川ではオオウナギ、6kmほど離れた海ではブダイやアナゴを釣って(捕って)いたらしい。
サキタリ洞人は、ほかにイノシシやリュウキュウジカ(渡来してきた旧石器人によって絶滅?)などの大型ほ乳類の他、トカゲ、鳥、ヘビ、カエルなどの小動物も食べていた。でも、洞窟から見つかる圧倒的多数はモクズガニ(上海カニはその仲間)とカワニナだそうだ。しかも、モクズガニを丁寧に調べると(貝殻の端、最後に形成された殻のの酸素同位体比(温度を反映する))、おもに旬の時期(川から産卵のために海に降りる秋)に食べていたこともわかったという。で、筆者はグルメな、食生活を楽しむ旧石器人と想像する。カワニナなんて、お腹一杯になるまで食べるのは大変そうだ。
でも、もう一つの可能性は、ここに定住していたのではなく、海に降りるモクズガニを狙って、モクズガニを捕らえやすいサキタリ洞をその頃の住まいとしていたということも考えられると思う。下流の港川遺跡からはイノシシなどの骨もたくさん見つかる、モクズガニが沖縄の旧石器人の常時の主食になっているわけではないことは他の遺跡から明らかななので。
目次
はじめに
年表
地図
1 むかしばなしの始まり――人類誕生,そしてヒトは沖縄へ
新参者の私たち/アフリカからの偉大な旅/旧石器時代のヒトと暮らしを考える/主人公はどんな姿か?/なぜか沖縄で見つかる旧石器人/港川人――1970年代の大発見/骨から考える旧石器時代/豊かな森の厳しい暮らし?/なぜ島にとどまったのか
◆コラム 山下町第一洞穴遺跡
2 洞窟を掘る――沖縄に旧石器人を求めて
鍾乳洞で遺跡を探す/最初の調査,ハナンダガマ/次は武芸洞/穴があったら入りたい人たち/そしてサキタリ洞へ/カニ,カニ,カニ,カニ/掘り続ける日々/人骨が出た!?/年代測定の難しさ/おそろしく悩ましい決断/嬉しい誤算
◆コラム 遺物の古さを測る方法
◆コラム 見つけてしまったお墓
3 カニとウナギと釣り針と――旧石器人が残したもの
沖縄で旧石器を見つけた!/またしてもカニ/貝は割れていた/旧石器人のビーズ/世界最古の釣り針発見!/釣ったはずの魚を探せ/魚の捕まえ方/食べたもの,食べられなかったもの/どうして焼けるのか/きれい好きな旧石器人?/夜の川沿いの動物たち/ヘビやトカゲも食べた!?/小動物のある食卓
◆コラム 魚介類を味わう人々
4 違いのわかる旧石器人――「旬」の食材を召し上がれ
食べるべきイノシシは山ほどいる/大きなモクズガニの謎/カワニナから季節がわかる!?/黒いカワニナは焼けていた/やっぱり秋だった!/季節に合わせた採食戦略
◆コラム カワニナを食べる人々
5 消えたリュウキュウジカの謎
沖縄の絶滅シカたち/ヒトが食べた証拠はないか/6000年で絶滅/島に暮らすうちに小型化?/長寿の島の長寿のシカ/そこにヒトがやってきた
◆コラム 石垣島の旧石器人
6 むかしばなしはまだ続く
サキタリ洞むかしばなし/厳しい暮らし? おいしい暮らし?/石器はどうして見つからないのか/旧石器人は生き続けたか/冬になり,そしていずこへ……?
参考文献
写真提供
※ 本の画像をクリックすると拡大します。戻るときはブラウザの戻るボタンをお使いください。
2019年8月記