驚異の量子コンピュータ 藤井啓祐 岩波科学ライブラリー289 ISBN978-4-00-029689-2 1,500円 2019年11月
よくわからないけど、なんかすごそうな量子コンピュータ。最近のニュースでもスーパーコンピュータでは数万年間年かかる計算を、グーグルが開発した量子コンピュータが数分でやったとかもあった。もっとも、量子コンピュータ開発のライバルでもあるIBMは、スーパーコンピュータでもうまく使えば数日でできると反論したらしい。でも、これは量子コンピュータのすごさを逆に証明したようなものだ。
あのファインマンも、「自然法則は古典力学で動いていない。もし自然をコンピュータでシミュレーションしたかったら、量子力学で動く量子コンピュータを作るべきだ。」といっていたという。この本では、“先駆者”としてのファインマンがしばしば登場する。
もっともファインマンのころは、現実の量子コンピュータなどまだ夢だっただろう。でも、1990年代には第1次ブーム、そして停滞期を挟んで、2010年代にブレークスルーがあり、いまその熱気が続いている時代になっているらしい。
この本を読んでも、結局のところなかなか量子コンピュータをイメージするのは難しい。でも、現代社会に欠かせない“暗号”(ビットコインもこれを前提に成立)に大きく絡んでいること、将来的には副題にもあるように、宇宙をハックする(筆者は宇宙の秘密を解き明かすという意味で使っていると思う)可能性もあることなどはわかった。
またこうした研究の過程で、「素因数分解の量子アルゴリズム」(309桁(1024ビット)の素因数分解はスーパーコンピュータでも1年かかるが量子コンピュータでは簡単にできるアルゴリズム)の発見とか、アマゾンでおなじみの“推薦システム”について、古典アルゴリズムよりも量子推薦アルゴリズムのほうが優れているということを示そうとしする過程で、既存のどの古典推薦アルゴリズムよりも速い古典推薦アルゴリズムを見つけてしまった、というような話も興味深かった。
いずれにしても、IT界の巨大企業ばかりか、ベンチャー企業、さらには中国のように国自体が開発に血眼になっている、たしかに筆者がいうように月着陸を目指していたころのようなものかもしれなし。だれがライト兄弟が12秒の飛行に成功した1903年当時、その66年後に月まで行くことができると予想した人がいただろうか、というとこなのかもしれない。
目次
はじめに
第T部 物理学とコンピュータの歴史
1章 量子力学の誕生 古典物理学の限界/電子の奇妙なふるまい/物質(粒子)と波の統一/量子の性質
2章 コンピュータと物理法則 コンピュータの父バベッジ/アナログとデジタル/チューリングマシンの登場/情報科学の発展/デジタルコンピュータの発展/ムーアの法則とその限界
3章 量子コンピュータの夜明け前
情報科学と物理学の再会/計算にエネルギーは必要か?/古典万能計算/量子力学の可逆性に着目/量子コンピュータの登場
第U部 量子コンピュータの仕組み
4章 量子情報と量子ビッ 量子の重ね合わせ/量子の情報を数値化する/量子ビット/エンタングルメント/神はサイコロを振る/パラドックスから応用へ/様々な量子ビット
5章 量子コンピュータのからくり 量子コンピュータへの拡張/たくさんの量子ビット/量子ビットを古典コンピュータで表現すると?/量子力学で古典コンピュータを理解し直す/0と1だけの世界から解き放たれたコンピュータ/並列性と干渉/素因数分解問題/ショアの素因数分解/量子ビットのいらない量子アルゴリズム
6章 量子とノイズのせめぎ合い エラーとの戦い/量子ビットはノイズに弱い/量子情報はコピーできない/アナログコンピュータ/エンタングルメントで戦え/第一次ブームと停滞期/実現への壁
7章 ブレイクスルー ヒントはエキゾチックな物質に/量子アニーリング/ギークたちによる究極のエンジニアリング/巨人たちが動く
第V部 量子コンピュータの挑戦
8章 量子超越をめざして 極限的に複雑な世界へ/計算の複雑さの測り方/物理現象の複雑性/量子超越への道筋/古典コンピュータとの戦い/グーグルの量子超越/自然を検証することの難しさ
9章 量子コンピュータはスパコンに勝てるのか? NISQはノイズとの戦い/量子古典ハイブリッドアルゴリズム/量子コンピュータと人工知能/究極的な困難さへの挑戦
10章 宇宙をハッキングする
量子コンピュータがもたらす未来/量子コンピュータは宇宙の箱庭/宇宙をハックする/さいごに――量子の挑戦
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2019年12月記